クマだけじゃない「イノシシ被害」の壮絶な実態…作物が食い尽くされて「農業を断念」、自分たちが食べる米が確保できない農家も

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打つ手はもう無い

「毎年沢山のイノシシを捕獲・駆除していますが、全体の頭数はほとんど減少していません。一部の地区では“異常に繁殖しているのでは”と心配しています。この現実を前に、ただ指を咥えてじっとしていると、地区崩壊の速度がますます加速されてしまう。それに逆らうため、私の農園は今年、国の補助事業でワイヤーメッシュを1500枚・3000メートル取り付ける工事に取り掛かりました。正直なところ、かなり大変な大工事です」

 実際、被害状況は酷いもので、今年6月には里芋を全滅させられたため、種芋を探して再度植え付けを行ったそうだ。10月に入ってからもジャガイモが大量に食べられてしまった。かつては大豆を播種し、若いうちは枝豆を育て、その後に大豆を収穫して味噌を作っていた。だが、今年は播種してすぐに種をイノシシに食べられたため、「発芽が認められない」と判断をされ、大豆栽培の補助金を貰えなかったという。

「せっかく作付けをしても、イノシシが食べ、畑を荒らしてしまう。イノシシの被害には言い表せないほどの憤りを覚えます。ミカン、柿、イチジクなどの永年作物の場合は、枝や幹を折られる被害も甚大です。最近は昼間でも栗などを食べに来るので、ほとんど収穫できません。そして、2月頃になると甘みが出る大根も今年は全滅させられました。数年前は収穫寸前のスイートコーンが一夜で台無しにさせられた事もあります。その後は電気牧柵で侵入を防止していますが、日常の保守管理にとても手間がかかる。イノシシの被害は書けばキリがありません。農家の人々は、『打つ手はもう無い……』と半ば諦めています。イノシシの生態を真剣に研究しなかったことが今日のこの結果になっているのだと思っています」

イノシシに寄生するマダニが何よりも怖い

 このように、自分の手がけた仕事がイノシシによって無になる経験を農家の人々はしているのだ。イノシシの子供である「ウリボウ」は見た目が可愛いため、これを駆除したニュースが出ると恐らく役所にはクマの場合と同じようなクレームが来るだろう。だが、いずれウリボウも上記のような害をもたらす巨大イノシシに成長するのだ。さらに、吉田さんはイノシシに寄生するマダニを「何よりも怖い」と語る。隣の地区の人がマダニに噛まれ、数日意識不明になったことがあるという。

 そんな吉田さんだが、交流のある伊万里や唐津の人々を自身の小屋に呼び、イノシシの解体作業を行う。すでに猟友会の血抜き・内臓処理をした個体である。チェーンでイノシシを吊り上げ、まずはバーナーで毛を念入りに焼いていく。マダニが寄生している恐れがあるため、焼き殺すのである。吊り下げたイノシシの皮を包丁やカッターナイフで切り、肉を露出させる。

 毛皮をむいたら、頭と足を切り、肉を小分けにしていく。ヒレあり、バラあり、ロースあり、肩、腿、何でもアリである。そして、解体手伝いに来た人々はこれらを地元に持って帰り、知人や行きつけの飲食店に渡すのである。彼らはその後「料理したよー」という報告を写真とともに送ってくれる。このように、駆除したイノシシは、我々が最後に命をいただき、自らの肉体を作っていくのだ。

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