「高血圧」「糖尿病」「脂質異常」予防可能性10倍以上の歩行量とは? 20年以上の研究で明らかに

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「普通の生活」を心掛ける

 これまでの話をまとめると、病気にならず健康を保つ秘訣(ひけつ)は極めてシンプルであると言うことができます。

 8千歩歩けば自然と20分速歩きできるということは、サラリーマンであれば通勤して職場で座りきりにならないようにすればいい。高齢者が認知症を予防したいのであれば、とにかく家に閉じこもらないで外に出る。要は、怠惰に陥らずに「普通の生活」を心掛けることが、実は健康長寿への一番の近道なのです。「8千歩・20分」も「5千歩・7分半」も、健康になるために必死に努力して達成するものではなく、普通の生活をしたその結果としてついてくるものといえるわけです。

 なお、認知症予防のところでもお話ししたように、毎日8千歩、あるいは5千歩が難しければ、1週間単位や月、年単位の平均を意識するのでもいいと思います。雨の日もあれば、暑すぎたり寒すぎたりする日もあり、毎日同じ歩数とはなかなかいきません。

秋のメリット

 その意味で、秋は最も歩数を稼げる季節といえます。暑すぎず寒すぎずということであれば春も同じですが、秋のメリットは暑熱馴化(しょねつじゅんか)です。

 人間にとって、血流量が減り心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす脱水状態は最も危険な状態であり、大量の発汗は避けなければなりません。同時に体温が高くなりすぎないようにする必要もあります。

 暑い夏は、いや応なく汗をかき、そのため十分な給水が必要となるわけですが、発汗とともに効率良く血液を循環させることによって熱を体の外に逃がし、体温が上がりすぎるのを防ごうとします。

 そして、夏を経て暑熱馴化した体は「血液循環力」を高く保ったままであるため、秋に多少速く歩いても、気温の低下も加わって無駄に汗をかかずとも体温を下げることができ、脱水状態に陥るリスクが減ります。一方、寒い冬を越えて迎える春は、体が暑熱馴化しておらず血液循環力が低いので、体温を上げないようにするため無駄に汗をかきやすい。

 1981年から2010年の平均気温をもとに算出した場合、東京であれば10月に1年で最も多い1日平均8220歩あるけば、寒い1月には最も少ない7714歩でも、1年で平均して「8千歩・20分」が達成できる計算になります。

 世の中にはありとあらゆる運動健康法が溢れていますが、わざわざジムに通わなくても、また無理してスポーツをしなくても、歩くことによって万病は予防できる。歩行以上にハードルが低く、自然にでき、そして究極の健康法はないと私は考えています。

青柳幸利(あおやぎゆきとし)
東京都健康長寿医療センター研究所・元運動科学研究室長。1962年、群馬県中之条町生まれ。医学博士。筑波大学卒業、トロント大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム副部長、同研究所運動科学研究室長などを歴任。『なぜ、健康な人は「運動」をしないのか?』『あらゆる病気は歩くだけで治る!』等の著書がある。

週刊新潮 2023年10月5日号掲載

特別読物「『5千人』『20年以上』“奇跡の研究”が物語る真実 『万病』を防ぐ『歩行』を究める」より

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