累計5000万部超の人気漫画家「赤松健参院議員」が語る、日本が国を挙げて“漫画の原画”を守るべき理由

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原画がもつ力を多くの人に伝えたい

――そういう意味では、原画を受け入れる相談窓口を設けた「横手市増田まんが美術館」の役割は大きいですね。そもそも、赤松さんは原画を残す意義をどのように考えていますか。

赤松:私は他の漫画家の原画を見るたびに、アッと驚くことの連続です。デジタルと違ってやり直しがきかないのがアナログ原画の魅力ですが、ペンの勢いやホワイトの修正跡、漫画家の技術力の高さや熱意が手に取るようにわかる。印刷物では伝わらない魅力がたくさんあるんですよ。先人の優れた原画を見ることはクリエイターにとってもプラスになりますし、新人の漫画家にはぜひ積極的に見てもらいたいと思っています。また、漫画を描いたことがない人の感情をも揺さぶる力が原画にはあります。各地で行われている漫画家の原画展は好評ですよね。

――美術館や百貨店での展示も増えていますよね。ただ、私は一般の方々にはまだ、原画の価値が浸透しているとは思えません。私は横手市の高校に通っていたので市内に友人も多いのですが、「なぜ原画を残すことに税金を使うのか。そんなものより少子化対策や高齢者福祉に使うべき」という意見を持つ人もいました。今後そういった議論が巻き起こるのは必至ではないでしょうか。

赤松:そうした批判は、20年、30年後にはきっとなくなると思います。『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博先生、『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴先生の原画展は、大人も子どもも楽しんでいるでしょう。地方でも漫画が持つ力に注目した町おこしが盛んです。熊本県に行くと『ONE PIECE』の銅像が立っていますし、鳥取県の境港の「水木しげるロード」などの事例もあります。こうした動きが5年、10年先にはもっと盛り上がっていくのではないでしょうか。もちろん私は理解を得る努力をしていきます。しかし、漫画が持つ力は大きく、自然に理解が得られていくのではないかと考えています。

国は漫画やアニメを積極的に振興すべきだ

――私個人の意見ですが、原画の価値を明確に示すうえでは、将来的に国宝や重要文化財に指定される作品を出す必要性を感じます。赤松さんは、国会議員としてそういった働きかけをする構想はありませんか。

赤松:そういう方向性はあるべきだと思いますが、むしろ、国のトップが日本は漫画やアニメなどは海外で引っ張りだこだから、産業として盛り上げていくと言って予算を出すべきだと思っています。韓国は、1990年代後半に「今後の韓国は文化で食っていく」と国のトップが明言しました。それが20~30年経ってK-POPや韓国映画となり、世界を席巻したわけです。日本のコンテンツを見渡すと、映画、アニメ、TVドラマ、ゲームの原作に漫画が使われていることが非常に多い。これほど広がりのある文化は世界中探してもないと思いますよ。設備投資が安く済む漫画では、より多くの実験ができ、多くの才能が発掘されやすいのです。そうした潜在的なパワーがありますから、日本はもっと積極的に振興していくべきだと、私はこれから訴え続けていくつもりです。

――そういった取り組みに賛同する国会議員は増えているのでしょうか。

赤松:自民党のなかにもいますし、私が参議院の比例区でトップ当選したこともあって、党内では漫画を規制しようなどと言う人はもう見かけません。私の取り組みにも好意的な評価が多く、例えばG7のときに各国の首脳に似顔絵を描いて渡す企画も、岸田総理の許可をとってやっていますし、どの大使館でも歓迎されました。漫画を使った国づくり、町おこしを主導するのが私のテーマです。

――海外からも日本の漫画の評価が高いことを、赤松さんは身を持って示してくださいました。こうした取り組みを見て、一人でも多くの人に漫画がもつ力の理解が浸透していってほしいなと思います。

赤松:私は、漫画やアニメがきっかけになって国が豊かになるという理解は、得られると思うんですよ。例えばアメリカ含め全世界で日本がトップをとれそうなのは、今は何と言っても漫画、アニメ、ゲームです。これを推さずして何を推すのかと。そのためには、やはり海外へアピールしやすい施設は欲しい。そしてその際、現役の漫画家本人はもちろんですが、漫画家の遺族にも利益が還元されるシステムを作るべきです。原画の保存はもちろんですが、漫画文化を発展させる方策をこれからも考えていきたいと思っています。

山内貴範(やまうち・たかのり)
1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。

デイリー新潮編集部

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