大国外交、思想統制の強化…「民主的に開かれた社会に向かって…」は“今は昔”の中国が行き着く先

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思想統制のさらなる強化がつくりだす閉塞感

 思惑が外れた習氏は、思想統制のさらなる強化で政権基盤の弱体化に歯止めをかけようとしている。

 中国では6月7日からの3日間、現代版科挙制度とも言える全国統一大学入試「高考」が実施された。今年の出願者数は1291万人で過去最高を更新した。

 注目を集めたのは、作文問題で習氏の思想が題材になったことだ。一生を左右すると言われる機会を利用して、習氏の思想を若年層に浸透させることが狙いだと噂されている。

 当局の暗黙の圧力のせいで、中国各地ではイベントの中止やアーティストらの活動停止も相次いでいる(5月22日付ブルームバーグ)。

 経済発展とともに国民の間で広がった「民主的に開かれた社会に向かって前進している」という感覚は「今は昔」となっている。

 驚くべきは「今の中国人は日本人よりも『空気を読む』ようになった」という指摘だ(6月5日付ニューズウィーク)。「文革2.0」に入ったとされる中国では、生き抜くために、常に権力者の意向を忖度できる「特殊な能力」が求められているというわけだ。

 バブル崩壊後、多くの日本人は「出る杭が打たれる」ことを恐れ、空気を読むようになったが、現在の中国社会を覆う閉塞感はそれ以上なのかもしれない。

 このことに最も敏感なのは富裕層だ。中国における富裕層の海外流出は今年、世界最多(1万3500人)になるとの予測が出ている(6月14日付ブルームバーグ)。

 中国共産党が国民に見捨てられる日は近いのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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