“集合住宅で遊んでいたらバケツの水が…”「子どもの声は騒音ではない」お手本ドイツの意外な実情

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 昨年末、長野県長野市で1軒の家からの騒音被害の訴えを機に公園が廃止されたことが大きな反響を呼んだ。今年4月には国会で「子どもの声は騒音ではない」ことを法制化する動きが出はじめ、岸田文雄総理や小泉進次郎氏はドイツを例にあげて、法制化の必要性を訴えた。果たして日本は子どもに優しい国になれるのだろうか。ドイツ出身で、HP「ハーフを考えよう!」を運営するコラムニストのサンドラ・ヘフェリンさんがドイツの歩みを解説する。

スープストックに子どもは来るな?

 先日、政府が「子どもの声は騒音ではないとする法律」の制定を目指しているという報道がありました。国会では岸田総理が「子どもの声が騒音であるということに対して、我々は改めて、考えを改めなければいけない。これこそ次元の異なる政策であると考えて、これからも政策を進めていきたい」という考えを示しました。

 近年、日本では「子どもの騒音」にまつわるクレームが増えています。今年3月には長野市の公園「青木島 遊園地」が一部の近隣住人から「子どもがうるさい」と苦情を受けたことが理由で廃止になりました。

 4月にスープ専門店の「Soup Stock Tokyo」(スープストックトーキョー)が離乳食を無料で提供すると発表したところ、「大人が1人で行って楽しめる場所だったのに、子どもがいると騒がしくなる」などの意見がSNSに書き込まれ、ちょっとした炎上騒ぎになってしまいました。

「子どもの声は騒音なのか」という問題を考えるとき、「ドイツ」が引き合いに出されることが少なくありません。たとえば岸田首相は「ドイツでは、法律で騒音の定義が『騒音(子どもを除く)』となっている。日本も一部の自治体で条例として定められているが、それをもっと広めていきたい」と発言しています。確かにドイツでは現在、法律上「子どもの声は騒音ではない」のです。

 今回は「子どもの声が騒音でなくなるまでのドイツの道のり」と「その後」について着目します。

Kinderlaerm(和訳:子どもによる騒音)という「単語」があったドイツ

 ドイツはもともと音に敏感な国柄です。ドイツの集合住宅では「正午から午後2時、午後10時から午前7時、日曜日や祝日は終日、Ruhezeit(休息時間)」といった細かい規定があります。「休息時間」とされている時間帯は基本的には物音を立ててはならず、自宅で掃除機をかけることも洗濯機を回すこともできません。

 そんなドイツで子どもは当然のように「うるさい存在」として扱われてきました。「子どもによる騒音」を意味するKinderlaermという単語まであったほどです。かつてのドイツは「子どもに優しい」とはいいがたい国でした。小学生の頃、ドイツの集合住宅に住んでいた筆者は、仲間と一緒に中庭で遊んでいたところ、激怒した住民から3階のベランダからバケツで水をかけられたことがあります。

「子どもの騒音」が訴訟に発展することも珍しくありませんでした。

「集合住宅の別の部屋の子どもの声がうるさいから、家賃を下げてほしい」

「家の近くの公園で遊ぶ子どもの声がうるさいので家賃を下げてほしい」

「子どもの声がうるさいから、家の近くに公園を作るのを中止してほしい」

 などといった理由で頻繁に訴訟が行われていました。なかには弁護士事務所が「弁護士事務所の近くの子どもの声がうるさい」と訴えたケースもありました。

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