“集合住宅で遊んでいたらバケツの水が…”「子どもの声は騒音ではない」お手本ドイツの意外な実情

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近隣住民から「うるさい」と苦情を受け、閉鎖に追い込まれた保育園

 上記のケースはいずれも原告側が負けたものの、2008年から2009年にかけて保育園を訴えた原告側が勝訴し、保育園が閉鎖されるという事例が相次ぎました。

 2008年10月には近隣住民から「子どもの声がうるさい」と訴えられていたハンブルグの住宅街オトマールシェンの60人規模の保育園が裁判に負け閉鎖を余儀なくされました。その際、ハンブルグの高等行政裁判所が「この規模の保育園は閑静な住宅地にそぐわない」と判断したことが世間では物議を醸しました。「規模」に言及しているとはいえ、閑静な住宅街に保育園はそぐわないと解釈することもできるからです。

 また2009年5月にはベルリン・フリーデナウにあったMilchzahn(ミルヒツァーン。「乳歯」という意味)という名の保育園が近隣住民から「子どもの遊ぶ声がうるさい」と訴えられ、同園は閉鎖せざるを得ませんでした。

2011年「子どもの騒音は騒音ではない」ことが法制化

 ドイツ子ども保護連合連邦協会の会長だったPaula Honkanen-Schoberth氏は2011年2月、「公園や保育園は、子どもたちとその家族が住んでいる場所にこそ必要。子どもたちが(住宅地ではなく)防音塀の中や、商業地域に追いやられるということはあってはならない。そういった場所に子どもを追いやるのだとしたら、社会が子どもを邪魔者扱いしていることになる」と話しました。

 ドイツの都市自治体の全国連合組織であるドイツ都市会議の当時の議長だったCDUのPetra Roth氏は「子どもと子どもたちの活発さは私たちの生活の一部」と表明。

 そして当時妊娠中だった連邦家庭大臣のKristina Schroeder氏も「子どもは社会の中心にいるべきだ。子どもがうるさいからといって、保育園などが生活の場所から遠い場所に追いやられるのはあってはならないこと。子どもはうるさいし、泣くし、叫ぶし、笑う。でも我々も子どもの頃はそうだった。子どもがいつも静かにしているのは無理がある」と発言しています。

 保育園の閉鎖が相次いだことが世間で物議を醸し、ようやく政治が動きます。2011年5月にドイツ連邦議会では「連邦イミシオン 防止法」が可決されました。同防止法には「児童保育施設、児童遊戯施設、およびそれに類する球技場等の施設から子どもによって発せられる騒音の影響は、通常の場合においては、有害な環境効果ではない。このような騒音の影響について判断を行う際に、排出上限及び排出基準に依拠することは許されない」(22条1a)と記されています。

 要するに、子どもが遊んでいる際の声や音について「環境を害する騒音ではない」と法律で決まったわけです。それまで子どもの声は「自動車による騒音」「酔っぱらいによる騒音」と同じ扱いでした。

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