片山杜秀氏と岡田暁生氏が語り尽くした『ごまかさないクラシック音楽』は、他の入門書とどこが違うのか

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尋常ではない入門書

◆A男さん(64歳。会社員。子供は独立して妻と2人暮らし。クラシック愛好歴50年超。現在、N響と日フィルの定期会員。CD約8,000枚所有)

◆B雄さん(50歳。独身。飲食業。クラシック愛好歴30年余。市民吹奏楽団でクラリネットを吹く)

◆C子さん(42歳。DTPデザイナー。子供なし、夫と2人暮らし。あまり詳しくないが、仕事中のBGMにクラシックを流している)

A男「たいへん面白く読みました。この手の入門書はどれも似た内容なので、あまり手に取りません。しかし今回は、岡田暁生さんと片山杜秀さんの対談だというので、期待していたところ、まさに自分のような人間のための、尋常ではない入門書でした」

C子「私、入門書って読んだことないんですが、そんなに似た内容なんですか」

A男「バッハとヘンデルは、同じヘボ眼科医にかかって失明。ベートーヴェンは難聴。モーツァルトはウンチの歌を書いている。チャイコフスキーはゲイ……そういう〈裏話〉を知って聴けば、クラシックは身近になるというのが多くの入門書のパターンです」

B雄「たしかに、本書に眼科医やウンチの話は出てきませんね」

C子「でも、別の〈裏話〉は続々出てきますよ。ベリオという現代作曲家が『人間は三分間しか音楽を聴けない』と言っていたとか、グレン・グールドとマクルーハンの家が近所だったとか。こういう〈裏話〉は、いままでの入門書にはなかったんですか」

A男「ありえません。だから、本書は尋常な入門書ではないのです。私たちは、このレベルの〈裏話〉を読みたかったのです」

B雄「私は、冒頭、岡田さんが、“バッハ以前の一千年はどこへ行ったのか”と疑問を呈していたのに思わず膝を打ちました」

C子「ここは私も頷きました。バッハは〈音楽の父〉だと教わってきました。しかし西洋音楽は、バッハ以前に一千年もの歴史があるのですね」

A男「一千年とは、たいへんな長さですよ。日本でいうと『源氏物語』が書かれたのが、いまからほぼ一千年前ですから」

B雄「しかし正直なところ、バッハ以前の音楽なんて、つまらないじゃないですか。ルネサンス音楽とか、グレゴリオ聖歌とか、ほとんど教会のお経でしょう」

C子「同感です。私は、仕事中のBGMに、ベルギーのクラシック専門FM〈KLARA〉をインターネットで流しています。すると午前中は、むこうが真夜中のせいか、静かな古楽がよく流れるんですよ。今朝もお経みたいな音楽が流れていて、朝から眠くなってしまいました。画面を見たら《AVE MARIS STELLA》と出てました。検索したら《アヴェ・マリス・ステラ》(めでたし、海の星よ)で、15世紀のデュファイというひとのミサ曲でした」

A男「実は、私もバッハ以前にはそういうイメージをもっていました。しかし、本書P.42で岡田さんが紹介されている『ペロタン作品集』を中古CD店で入手し、さっそく聴いてイメージが変わりました」

C子「私、ペロタンなんて本書で初めて知りました」

B雄「私もです。“12~13世紀のフランスの作曲家で、初期ポリフォニー(多声音楽)の大家、しかも現代音楽のミニマル・ミュージックのモデルになった”とありますね。バッハより500年近くむかしですよ」

(さっそくCDの一部を聴く)

C子「きれいですねえ。この世の音楽とは思えませんね。たしかに現代音楽っぽい響きも感じられます」

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