「あと10分歩けば寿命が9カ月延びる」 専門家が教えるウオーキングの適正歩数とは?

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歩行はストレスにならない

 再度、宮地教授が「歩くこと」の重要性を説明する。

「年を重ねると激しい運動は難しくなりますが、けがなどをしていなければ歩くことは誰にでもできます。また、水泳や筋トレと違って歩行はストレスになりません。泳ぐにしても筋トレをするにしても、日常的な運動ではありませんから、どうしてもストレスを感じやすい。それに対して、歩くという行為は人間のDNAに組み込まれた極めて自然な動きです。ですから、やはりとりわけ高齢者にとっては、歩くことが最も身近で簡単な健康運動なのです」

 そうはいっても現実は……。実際、今回の分析調査対象4165名の約7割は、1日の歩数が5千歩未満だったという。

「逆に考えると、あと10分歩けば死亡リスクを下げられる高齢者が7割もいることになります。つまり、多くの高齢者には少し歩数を増やすだけで健康になれるチャンスがあるのです」(同)

 ちなみに、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(19年)によると、高齢者に限らない日本人全体の1日の平均歩数は、成人男性が6793歩、成人女性が5832歩となっている。

「若い方も高齢者も、先ほど申し上げたように自分の限界を超えてけがをしてしまうようなことさえなければ、そして楽しいのであれば、5千歩や7千歩以上歩いてはいけない、というわけではありません。1万歩でも1万5千歩でも好きなだけ歩いてください。たしかに、1万歩以上歩いても死亡リスク低減効果はさして上がらないでしょう。しかし、筋トレの場合、1日2時間以上やるとかえって死亡リスクが上がるという論文がある一方、歩行に関してそれはない。他の運動と比べて健康を損なうリスクが極めて小さいのが歩行の特徴です」(同)

歩くことの“付加価値”

 その上、歩くことならではの“付加価値”も望める。

「筋トレは基本的に筋力がアップするだけで他には何も生み出しませんが、歩行は足腰が鍛えられるだけでなく、例えば掃除をすれば部屋が奇麗になり、買い物に出れば品物が手に入る。また、配達員が歩くという行為は単に配達員が動くだけではなく『物を届ける』という成果を生み出す。そして、感謝の気持ちも生まれる。歩行は『生産性』が高い運動でもあるのです」(同)

 ただし、いくら歩行が手軽で「生産性」が高い運動とはいえ、先ほども触れたように、フレイルになってしまってはその歩行もままならなくなる。

 最後に改めて渡邉助教が強調する。

「やはり、フレイルになってしまった方が1日あたり5千歩歩くのは難しいと思いますので、フレイルにならない対策を取ることが極めて重要になります。歩くことはフレイルの予防にもなりますので、そうなる前から5千歩程度を目指して歩きましょう」

 「+10」、すなわち1日24時間のうちあと10分だけ歩くという、健康長寿をもたらす生活スタイルに向けて歩を進めてみるのも悪くなさそうだ。

渡邉大輝(わたなべだいき)
早稲田大学スポーツ科学学術院助教。1991年生まれ。聖マリアンナ医科大学医学研究科修了。博士(医学)。神奈川県立保健福祉大学助手、医療基盤・健康・栄養研究所の身体活動研究部特別研究員を経て現職に。同身体活動研究部協力研究員、京都先端科学大学アクティブヘルス支援機構客員研究員も務める。

宮地元彦(みやちもとひこ)
早稲田大学スポーツ科学学術院教授。1965年生まれ。鹿屋体育大学体育学部卒業。筑波大学で博士(体育科学)を取得。川崎医療福祉大学助教授、医療基盤・健康・栄養研究所の身体活動研究部部長を経て現職に。『症状別みんなのストレッチ』等の著書があり、『100歳まで元気に歩ける体づくり「75のコツ」』を監修した。

週刊新潮 2023年5月4・11日号掲載

特別読物「『死亡リスク低減』のための『適正歩数』」より

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