「あと10分歩けば寿命が9カ月延びる」 専門家が教えるウオーキングの適正歩数とは?

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世界初の研究

 そこで、宮地教授と渡邉助教は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所などと共同して、「高齢者の歩数と死亡リスク低減」に関する研究調査を実施し、今年2月、その結果を発表した。

「単に高齢者全体の死亡リスクと歩数の関係ではなく、フレイル(虚弱)とフレイルではない方に分け、それぞれ死亡リスクを下げるためにはどれだけ歩かなければならないかを世界で初めて調べたのが、今回の私たちの研究です」(同)

 その世界初の研究調査は、「京都亀岡スタディ」で集められたデータをもとにしている。京都亀岡スタディは、介護予防の推進と検証を目的として、京都府亀岡市在住の65歳以上の高齢者を対象に2011年から続けられている大規模なコホート研究(疫学調査)である。高齢者の食事や睡眠など、さまざまな生活習慣に関するデータを集めてきたなかで、宮地、渡邉両氏らは前記した通り歩数に注目した。

「高精度の歩数計とでもいうべき三軸加速度計という計器を高齢者につけてもらい、4368名の方から回収しました。そのなかから、1日しか測れなかった方などを除き、最低4日間、さらに必ず1日は休日を含んで測れた方という条件で、最終的に4165名のデータを分析することにしました。なかには、30日間も三軸加速度計をつけてくれた方もいました」(同)

 平日と休日、また季節によっても人の歩数は変わりそうだが、そうした要素も加味・補正し、厳密な分析調査が実施された。

「これまでは、三軸加速度計を使わなかったため若者よりも緩慢な高齢者の動きを歩数としてカウントできなかったり、あるいは、『あなたは昨日どれだけ歩きましたか?』といったようなアンケートをもとに行われた分析も少なくなかったのですが、今回は計器などを含め、データサイエンスに基づき、より正確な分析調査を実施することができました」(同)

 その結果はというと――。

7千歩前後で頭打ち

「まず、フレイルではない高齢者に関しては図Aの真ん中の実線に注目してください。縦軸があらゆる原因による総死亡リスク(以下、死亡リスク)、横軸は1日あたりの歩数です。1日約2千歩の方を基準にして見た時、5千~7千歩に増えるあたりまでは死亡リスクが下がっていることが分かります。ところが、7千歩を超えると死亡リスクはほぼ横ばいとなっています。つまり、フレイルではない高齢者は、1日5千~7千歩までは歩くほど死亡リスクが下がるものの、その効果は7千歩前後で頭打ちになることが分かったのです」(渡邉助教)

 なお、図にある破線は「95%信頼区間」と言い、この範囲内に調査結果の95%が収まることを意味しているが、これを示すのは疫学上のルールのようなものであり、専門家ではないわれわれが理解するためにはあくまで実線を見ればいいという。

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