尹錫悦を国賓として招いたバイデン 韓国を引き戻すニンジンは…半島波乱の幕開け

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 J・バイデン(Joe Biden)大統領は4月24日から30日まで尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を国賓として招いた。米中間で揺れる韓国を手元に引き寄せるためだ。ニンジンは「核抑止力の強化」で韓国は食い付いた。韓国観察者の鈴置高史氏は「中国の巻き返しは必至。韓国の国論は割れる」と見て半島の激動を予想する。

米国発の「NCG」

――4月26日の米韓首脳会談はどんな意味を持つのでしょうか。

鈴置:ひとことで言えば、中国との対立が激化する中、米国が韓国の取り込みに出た、ということです。それはある程度、成功しました。

――尹錫悦政権は「親米」ではなかったのですか。

鈴置:ええ、確かに親米を掲げる保守政権です。ところが中国に対しては左派政権と同様に弱腰。「親米従中」というべき存在です。平時なら米国も苦笑いして見逃したでしょうが、今は台湾有事がいつ起きてもおかしくない状況です。そこでグイ、とばかりに韓国を引き戻したのです。

 そのテコに使ったのが「核抑止力の強化」です。米韓首脳は共同声明とは別にわざわざ「ワシントン宣言」を発出。米韓が核抑止を議論する「核協議グループ」(NCG=Nuclear Consultative Group)の創設を謳うとともに、米国は核弾頭を搭載したミサイル原潜の韓国への寄港を約束しました。

――NCGは韓国側が要求したと報じられています。

鈴置:最終的にはその形をとりましたが、もともとは米国側のアイデアなのです。バイデン政権は同盟国を繋ぎとめるための方策を専門家に諮問しました。

 それに答えたのがC・ヘーゲル(Chuck Hagel)元国防長官らが作成した「Preventing Nuclear Proliferation and Reassuring America’s Allies」(2021年2月10日)です。ポイントは以下です。

・The United States should create an Asian Nuclear Planning Group, bringing Australia, Japan, and South Korea into the US nuclear planning processes and providing a platform for these allies to discuss specific policies associated with US nuclear forces.

 この報告書は「米国は核企画グループを作り、豪州、日本、韓国を米国の核戦力に関する政策論議に参加させよ」と答申したのです。要は、NATO(北大西洋条約機構)に準じた手法をアジア太平洋地域にも広げるべきだ、と提言したわけです。

 この辺りを詳しく知りたい方は『韓国民主政治の自壊』第4章第2節「保守も左派も核武装に走る」をご覧ください。

中国に忖度、核共有を取り下げ

 当時の韓国は「反米親北」の文在寅(ムン・ジェイン)政権でしたから北朝鮮に対抗する核抑止強化策は無視しました。一方、野に下っていた保守は新たな対北対抗策として希望を抱きました。

 北朝鮮が着々と核武装を進めるというのに、D・トランプ(Donald Trump)政権が北朝鮮との不毛な対話に乗り出し、米韓合同演習まで止めてしまったからです。

 2021年9月22日、大統領候補だった尹錫悦氏は「有事の際、戦術核の再配置と核共有を米国に要求する」と公約しました。保守候補としては当然でした。

 尹錫悦氏の言う「核共有」とはNATOで実施している核抑止力の強化を意味します。米国は戦術核をNATO加盟国の一部に配備。ドイツなどの攻撃機にも核爆弾を積んで敵を攻撃する体制を採っています。なお、核の使用に関しては米国が最終的な判断を下しますが、米国は同盟国の意見も聞くことになっています。

 話を韓国に戻すと、大統領選の投票日(2022年3月9日)の約1カ月前の2月7日、尹錫悦氏の発言は突然、後退しました。中央日報のインタビューで、以下のように語ったのです。

・北朝鮮の核をそのままにして、我が方も核武装するとか核共有を言いつつ核軍縮しようと主張するのはとても危険だ。北朝鮮が実際に非核化する可能性があろうがなかろうが、強力な経済制裁をして「核を持つようになれば結局、経済は破綻する」ということを示すのが重要だ。

 中国の顔色を見たのです。実際、今回のワシントン宣言に対し、発表翌日の4月27日、中国外交部は「地域の平和と安定を破壊する」として「断固反対」を表明しました。

 尹錫悦氏のこのブレに関し日本ではほとんど報じられていませんが、「従中」の証拠となる事実です。『韓国民主政治の自壊』第4章第2節」に詳述してあります。

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