コオロギ食騒動から1カ月 研究者は「“昆虫は代替たんぱく質“が誤解を生んだ」

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昆虫食ビジネスの中で抜け落ちた観点

 それでは、どうして「昆虫食は食料問題を解決する」といったイメージになったのか。世界的な昆虫食ブームの起点となった、国際連合食糧農業機関(FAO)が2013年に公開した「食用昆虫類:食料と飼料の安全保障の将来展望」と題する報告書に理由がありそうだ。

 報告書では、2050年には人口が90億人を超え、深刻な食料不足や家畜生産による環境負荷の増大を予測。解決策の一つとして昆虫食の有用性が紹介された。ただし、

「実はFAOは 、昆虫養殖や採集が小規模農家の生計多様化や所得向上につながるという利点を一貫して主張しています。また栄養豊富な昆虫は、健康的な食材の一つとなるだけではありません。栽培に大規模な土地改良が必要な穀類や、天然資源由来の魚粉だけに依存しない飼料原料の候補として、養鶏や水産養殖で利用できる可能性も持っています 。しかしながら、ビジネスとしての昆虫食が広がる中で、こういった観点がだんだん抜け落ちて、『食料問題の解決策』という点ばかりが強調されるようになってしまいました」

 特に、管理しやすい乾燥エサでも飼育できるコオロギは、食用としても飼料用としても大きな可能性を秘めている昆虫の一つだという。

「コオロギは雑食ですから、ヒトの食料や家畜の飼料原料との競合が少ない農作物の残渣も餌に利用できます。例えば、農家が副業として昆虫養殖をすれば、育てた作物の残渣をコオロギの餌にし、育ったコオロギを食材としてだけでなく、供給過多になったものはニワトリや魚などの餌として利用すれば、ムダが少ない食料生産が期待できます。他方、昆虫は生物多様性の代表格です。世界では少なくとも数億人が約2000種の昆虫を食材の一つとして伝統的に利用しています。コオロギ以外にも美味しさ、生産性、機能性などの面で大きな可能性を秘めている昆虫は今後複数出てくると思います」

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