コオロギ食騒動から1カ月 研究者は「“昆虫は代替たんぱく質“が誤解を生んだ」

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コオロギ養殖で成功したタイとの違い

 改めて“コオロギ食騒動”を振り返ろう。

 徳島県の高校が、食用コオロギを養殖する徳島大学発のベンチャー企業 のコオロギパウダーを使った「カボチャコロッケ」などを、昨年11月と今年2月に給食として提供した。希望した生徒だけが食する選択制だったが、批判の声が上がり、学校には問い合わせが殺到したという。

 さらに、高崎経済大学発のベンチャー企業と協業で「Korogi Cafe(コオロギカフェ)」シリーズを販売しているPasco(敷島製パン)にも飛び火した。およそ2年前の2020年末から、通常商品とは全く別のラインを新設し、コオロギ入りパウダーを使ったクロワッサンやバームクーヘンなどを通販のみで販売していたのにもかかわらず、Pasco商品全体の不買運動にまで発展してしまった。これを受けて同社は、ホームページなどで《 「超熟」シリーズはじめ、他商品にコオロギパウダーが混入する可能性はなく、本シリーズ以外にコオロギパウダーを使用する予定はございません》と強調することになった。

 鈴木氏は「過剰な反発の中で、『人類はコオロギを食べてこなかった』といった明らかに間違っているものが支持を集めています。このような誤解、昆虫を食べてきた人たちへの差別を生まないためには何が必要だったのか。タイの成功例から学ぶことは多いと思います」と言う。

 国を挙げて食用昆虫の生産に力を入れているタイでは、生産者向けのガイドラインが整備されている。

「タイでは1998年から、コンケン大学の昆虫研究者が開発した養殖技術が基盤となり、小規模農家の所得向上を目的としたコオロギ養殖事業が始まりました。農家が副業として稲作などの傍ら コオロギ養殖を始めたり、ノウハウを持たない人でも参入しやすいようにトレーニングコースが提供されたのです。その結果、養殖技術は全国に普及し、2011年にはコオロギ養殖を行う農家が全国で約2万人に、生産量は年間約7500トンに達しました。伝統的に昆虫を食べる文化がある国ではありますが、重要なことは、既存農業との連携を増やすと同時に、小学校の課外授業の一環で養殖場の見学を実施するなど、昆虫そのものや昆虫養殖に関する認知度の向上に繋がる動きを地道に進めていったことだと思います」

 タイ産の食用昆虫は、世界的な昆虫食ブームの波に乗り、欧米をはじめ世界各国への輸出で大きな利益を上げているという。昆虫養殖は大きな可能性を秘めていると言えるだろう。

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