なぜモドリッチは無得点でも世界を魅了できるのか にわかファンにも伝わる華やかなパス(小林信也)

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プログレッシブパス

 サッカーは長い膠着状態が続く競技だ。カタール大会でも一方がガッチリ守り、他方がパスを回してチャンスをうかがう時間の長い試合が多かった。どうやって守備の牙城を崩し、抜け穴を作るか。観客がジリジリと見つめている中、モドリッチの出す一本のパスが鮮やかに勢いを生み、シュートにつながる刺激的な場面を何度も見せられた。ピッチが一気に華やぎ、攻撃が熱を帯びる。その温度変化はにわかファンにもはっきり感じ取れた。攻撃のスイッチを入れ、試合を動かす。見る者の胸をも一瞬で弾ませる、それがモドリッチだ。

 一本のパスの重みは通常のサッカーの記録では表しにくい。だが、調べるとESPNが独自の視点から見事にモドリッチの存在感を抽出していた。さすがアメリカ。アメフト的な「プログレッシブパス」というアプローチで集計すると、モドリッチは「4年前のロシア大会に続き今回もランキング1位」だという。しかもカタール大会ではロシア大会の51回を18回も上回る69回を記録している。37歳にして衰えるどころか輝きを増した理由がこの数字に表れている。

 プログレッシブパスとは、「直近6本のパスの中で最も高い位置からさらに10ヤード、ボールを進めたパスのことを指す」と、ESPNのニュースを紹介している日本の電子マガジン「ザ・ワールド」が解説している。10ヤードは約9.1メートル。それだけボールを前に進めるパスを出した。そのパスは膠着状態を一気に打開する意図を持ったキラー・パスだった。

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