なぜモドリッチは無得点でも世界を魅了できるのか にわかファンにも伝わる華やかなパス(小林信也)

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 昨年のW杯カタール大会で「モドリッチ(クロアチア)に魅かれた」という声を多く耳にした。

 7得点でアルゼンチンを優勝に導いたメッシが大会の主役だった。8得点のエムバペ(フランス)も、ゴール前のすごみが半端ではなかった。それでも「モドリッチが最高」と絶賛するファンが少なくない。

 モドリッチは7試合で得点ゼロ。華やかな数字はない。それでも世界中を魅了する理由は何か? 彼は、熱心なウオッチャーだけでなく、カタール大会で初めて彼を知った“にわかファン”にすら愛された。

 メッシ、エムバペ、モドリッチ。三人はいずれも背番号10を背負っている。だが、ゴールに近いポジションで輝きを放つ二人に比べ、モドリッチは後方でボールをコントロールする。メッシとエムバペは攻撃的MF、モドリッチは守備的MFと呼ばれる。なぜか日本では守備的と表現されるが、もちろんモドリッチは「守備の人」ではない。

 サッカーの戦術は時代と共に変わってきた。より後方から攻撃を仕掛ける傾向が強くなった流れをモドリッチが象徴している。かつてペレや釜本邦茂がゴール前にいて、彼らにボールを渡せば得点を決めてくれる時代があった。いまも時にはあるが主流ではない。ストライカー頼みの戦術ではもう世界の頂点は狙えない。

 体力温存型のメッシは無駄な動きをせず、チャンスと見るや動き出す。ゴールに向かって相手守備陣を切り裂くパスやシュートは恐ろしいほど見事だ。しかし、弱点がある。メッシにボールが届かなければ、彼を生かせない。カタール大会ではアルゼンチンの選手がうまくメッシにボールを集めた。そのチームワークが優勝につながった。

 モドリッチは待つのでなく、自らゲームを組み立てるパスを出す役割を担う。守備の精度が高まり、簡単にゴール前のエースにボールを渡せない時代にあって、彼の活躍は際立っている。モドリッチが攻撃の起点として高機能を果たすからクロアチアは負けないのだ。

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