来日するボブ・ディラン「スマホ持込禁止」が意味するものとは

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 ボブ・ディランの7年ぶりの来日公演が行われることが2月9日、発表された。一番安いA席でも2万1000円、S席が2万6000円。この価格設定は、世界レベルで見れば高いとは言えないにせよ、ファンには多少の驚きやためらいを感じさせるものだったかもしれない。

 この公演については、注目すべき点が他にもある。スマホ、携帯電話の持込厳禁なのだ。

 公演告知のHPによれば、

「アーティストの意向により、本公演はスマートフォン・携帯電話の持込を一切禁止いたします。スマートフォン・携帯電話をお持ちの方は、会場入り口にて主催者が用意したYONDRと呼ばれるロック付きの専用ポーチに収納して頂きます。専用ポーチはお貸出し致します。会場内でスマートフォン・携帯電話の使用が発覚した場合、即ご退場頂きますのであらかじめご了承下さい」

 とのこと。

 コンサートなどで「スマホの撮影・録音禁止」は珍しくない。むしろそちらがスタンダードである。とはいえ、来日アーティストの公演では比較的規制がゆるく、スマホを取り出して撮影しても注意されないことも珍しくない。一方で、日本人アーティストやアイドルでは、実際に厳しく規制をしていることが多い。

 もともとボブ・ディランはステージの撮影に対して厳しい態度で知られており、数年前には勝手にファンが撮影したことに激怒して演奏を止めてしまったこともある。

 ボブ・ディランと同様に持込そのものを禁止したライブは以前にもあった。

 2019年、ジャック・ホワイト率いるザ・ラカンターズの来日公演である。やはり専用のポーチが用意され、来場者はそこにスマホを入れなければならなかった。ポーチにロックがかけられると、原則として公演終了まで解除されないことになっていた。

 当時、ザ・ラカンターズはこんなメッセージを出している。

「私達は少しの間でも来場者が電子通信機器から目を離して、音楽に対する私たちの愛を個別に体験して頂くことによってこの公演をより楽しんで頂けると思っております」

持っているだけで注意力が散漫に

 実のところ、スマホを持つ人のほぼ全員がこの道具によって集中力が散漫になったという実感を持っているはずだ。

 公演中は取り出さないからいいじゃないか、というのは考えが甘い。

 ベストセラーとなった『スマホ脳』にはこんな実験結果が紹介されている。

「大学生500人の記憶力と集中力を調査すると、スマホを教室の外に置いた学生の方が、サイレントモードにしてポケットにしまった学生よりもよい結果が出た。

 学生自身はスマホの存在に影響を受けているとは思ってもいないのに、結果が事実を物語っている。ポケットに入っているだけで集中力が阻害されるのだ。

 同じ現象が他の複数の実験にも見られた。

 そのひとつに、800人にコンピューター上で集中力を要する問題をやらせるというものがあった。

 結果、スマホを別室に置いてきた被験者は、サイレントモードにしたスマホをポケットに入れていた被験者よりも成績がよかった。(略)

 モニター上に隠された文字を素早くいくつも見つけ出す、そんな集中力を要する課題をさせる実験もあった。その実験を行った日本の研究者も、同じような結論を出している。

 被験者の半分は、自分のではないスマホをモニターの横に置き、触ってはいけないことになっていた。残りの半分は、デスクの上に小さなノートを置いた。

 その結果は?

 ノートを与えられた被験者の方が課題をよく解けていた。そこにあるというだけでスマホが集中力を奪ったようだ。

 ポケットの中のスマホが持つデジタルな魔力を、脳は無意識のレベルで感知し、『スマホを無視すること』に知能の処理能力を使ってしまうようだ。

 その結果、本来の集中力を発揮できなくなる」

 せっかく高い料金を払って、「記念写真」の一つも撮れないのか。そんな不満を抱く方もいるかもしれない。しかし、前出のザ・ラカンターズの「スマホ持込禁止」ライブを体験したファンはこう振り返る。

「入場後、スマホをまったく使えなくなったのですが、そのおかげで集中できたのは確かです。普段ならつい入場から開演までの間にスマホをいじったり、途中で時刻を見たりするんですが、そういうことが一切できなかった分、ステージに集中できたのはとても良かった。

 写真自体はバンドがあとでSNSにアップしてくれましたし」

 一見厳しそうな「スマホ持込禁止」はディランからの贈り物だと考えればいいのかもしれない。

デイリー新潮編集部

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