「刑務所が無料の老人ホーム化」「刑務官は廃墟のような家に…」 杉良太郎が64年間、刑務所改革に取り組み続ける理由

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受刑者の認知症問題

 加えて最近の医療刑務所の守備範囲はかなり広がっていますが、喫緊の課題の一つが、仮に受刑者が刑務所内で認知症を発症したらどうするか、という問題です。自分が誰だか認識できない受刑者にはどう罪を償わせればいいのか。こういった贖罪のあり方の本質に関わる問題への対処など、刑務官の役割やありようは大きく変化しています。

 心臓病や胃がんという具合に脳の機能に影響がない時はいいですが、アルツハイマー型認知症などの場合は罪を犯した事実やその罪名どころか、自分の名前すら覚えていないこともあります。入る刑務所もA級(犯罪傾向の進んでいない者)とB級(再犯や累犯、反社会的勢力といった犯罪傾向の進んでいる者)、L級(刑期が10年以上の者)などの等級によって分かれますが、長期で入っている人は症状がどんどん進んでしまいます。

 認知症を患う受刑者の面倒、つまり介護も刑務官の任務とするのか。あるいは、別に収容する施設を造るのか。仮に介護施設を造った場合、刑務所とは異なる環境で生活する受刑者は本当に罪を償っているといえるのか。そもそも、介護施設が罪を償う場所になり得るのか、といった問題も出てきます。

資格取得まで導いても出所すると…

 かねて私は、刑務官が受刑者の介護に苦労していることを知って、「これは本来の刑務所の姿じゃない」と感じていました。だから刑務官だけでなく受刑者も介護ができるよう、さらに出所後にその経験が生かせるようにと、刑務所で介護福祉士の国家資格を取得できるようにしました。

 ところが、ここで新たな問題が出てきました。仮に500人の介護資格を手にした受刑者がいたとして、その中の何人が出所後に介護職に就くのか。私の感覚ではせいぜい30人ぐらいだと思います。そもそも受刑者には勤労意欲が乏しかったり、働くのが苦手という人が多い。幾らこっちが「再犯防止につながるように」と資格取得まで導いても、ほとんどが出所したら働かない。

 よく耳にする話に「出所後に雇ってくれるところがないので働けない」「収入が得られないから再犯してしまう」というものがありますが、「働きたくない」「仕事は苦手」という人たちの再犯率を下げることが、いかに難しいかということがお分かりいただけるでしょう。

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