台湾有事が引き起こす第2次朝鮮戦争 米日の助けなしで韓国軍は国を守れるのか

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日本に空軍機を退避させたい

――他の地域とは?

鈴置:日本でしょう。いかなる形であれ、半島に緊張が走った瞬間、在韓米空軍は戦闘機などほぼすべての航空機をいったん日本に移すと見られています。

 2017年に米朝間で戦争の危機が高まった際にも、在韓米軍に所属する多数の戦闘機が日本に飛来したことが確認されています。当時、米軍は韓国に住む米国籍の非戦闘員の日本への避難訓練を実施しましたが、退避が必要なのは市民だけではありません。

 北朝鮮は大型多連装ロケット砲――日米韓は短距離弾道ミサイルと分類しますが――の大量配備を進めています。一度に多数のロケットを発射するだけに、米軍も全てを撃ち落とすのは不可能です。

 在韓米空軍の主力基地である烏山(オサン)は北朝鮮が実戦配備済みの300ミリロケット砲の射程に入ります。それ以上の射程を持つロケット砲の開発も終えた模様で2022年12月31日、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は同日に発射した超大型のロケット砲に関し「南朝鮮全域を射程に収め、戦術核まで搭載可能だ」と豪語しました。

――韓国も空軍機を日本に退避させたいでしょうね。

鈴置:もちろんです。ソウル五輪(1988年)ごろまで、韓国空軍は航空自衛隊に対し、緊急退避の受け入れを非公式に打診していました。当時、北のロケット砲の射程は短かったのですが、空軍機による航空基地への奇襲を韓国は恐れていたのです。

 もちろん、日本は戦争に巻き込まれたくないので拒否。そのうちに経済難による北朝鮮空軍の弱体化が明らかとなり、緊急退避案は立ち消えになっていました。が、北のロケット砲の開発進展で再び韓国にとって必須となったのです。

韓国ではなく台湾を選んだ日本

――日本は韓国空軍機の緊急退避を受け入れるのでしょうか。

鈴置:受け入れません。まず、それを可能にする法的な取り決めがありません。それに、台湾救援で手一杯な時に「第2次朝鮮戦争」への巻き込まれは迷惑至極です。

 そもそも国民感情が許さないでしょう。日本の足を引っ張り続けてきた韓国から、都合のいい時だけ助けてくれと言われるのです。普通の人なら怒りだすはずです。韓国空軍機を受け入れれば、日本が北朝鮮の攻撃の的になるのです。

 すでに、日本は中国に立ち向かうためのパートナーとして、韓国ではなく台湾を選びました。台湾の半導体メーカー、TSMCは熊本県に工場を建設中です。日本政府が積極的に誘致した結果で、この工場を中核に高性能のロジックの生態系を作るのが目的です。誘致のため、5000億円近い補助金も出します。

 韓国のサムスン電子のロジック部門も、TSMCに次ぐ世界2位の技術水準を誇ります。でも、サムスン電子を誘致しようとの声はまったく起きなかった。韓国という国が中国側に付く可能性が台湾と比べ、はるかに高いからです。

 実際、ここに至っても米国が画策する対中半導体封鎖網にも韓国は参加を渋っています(「半導体戦争で板挟みになる韓国 米国の圧迫と中国の嫌がらせ…頼みの綱は日本の輸出管理撤廃」参照)。

――韓国は日本との協力が必要不可欠なのに……。

鈴置:それを知らない日本人が多い。「半島有事の際、日本人退避に自衛隊機を送ろうにも今のままでは韓国が許可しない。だから『徴用工』問題などで韓国に譲歩して関係を改善すべきだ」と主張する日本の専門家がいます。

 これはまったくの事実誤認です。韓国にとってこそ、日本との協力が死活的に必要なのです。有事の際に自衛隊機の受け入れを拒否するなどという傲慢な選択肢は韓国にはありません。それどころか、その自衛隊機に韓国人も乗せてくれ、と言い出しかねない。

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