台湾有事が引き起こす第2次朝鮮戦争 米日の助けなしで韓国軍は国を守れるのか

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核武装に動く韓国軍

――韓国軍はどう考えているのでしょうか。

鈴置:軍人の中には危機的な状況を十二分に認識している人もいます。そして、彼らの答は核武装です。北朝鮮への切り札である航空優勢も失われる。米国の直接支援も日本の後方支援も期待しにくい。そのうえ、北朝鮮は核を持っている。ならば、核を持つしかない、との論理です。今のところ、その本音は隠していますが。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は1月2日付けの朝鮮日報(韓国語版)とのインタビューで「米国と核に関する共同企画、共同演習を議論しており、米国もかなり積極的だ」と述べました。NATO同様の米国との核共有を検討中と明かしたのです。

 J・バイデン(Joe・Biden)大統領は「核共有」発言を直ちに否定しました。しかし、尹錫悦大統領はひるみません。1月11日、外交部・国防部の業務報告の席で「[北朝鮮の核]問題がさらに深刻になったら、[米国の]戦術核兵器を配備したり、我々独自の核を持つこともありうる」と語りました。韓国の大統領が公の席で自前の核開発・保有に言及したのです。史上初の事件でした。

 保守は支持しました。朝鮮日報は社説「韓国大統領の史上初の『独自の核』言及が持つ意味」(1月13日、韓国語版)で「核は核のみで防ぐことができる」として、いつでも核兵器を持てる準備を進めよう、と国民に呼びかけました。

「大隊長以上は読んで欲しい」

 大統領の発言はもちろん、軍の「振り付け」があってのものでしょう。朝鮮日報の楊相勲主筆も一貫して「核を防ぐのは核だけ」「米国の核の傘をどこまで信用できるのか」と主張してきました。

 冒頭で引用した「[楊相勲コラム]我が国の戦闘機の50%が消滅した後に戦争が始まるだろう」の最後の段落が以下でした。

・米国の軍関連の分析は悲観的であることが多い。だが、このウォー・ゲームには重要なファクトと観点が含まれている。今や、古い安保戦略は通じないということだ。ミサイルの時代に、伝統的な軍隊の形態に安住してはいけないのだ。
・ウォー・ゲームは150ページと短くはないが、わが軍の大隊長級以上の将校の、できる限り多くに読んで欲しい。

 この記事のどこにも「核を持とう」とは書いていません。しかし、読んだ人の多くは「第2次朝鮮戦争を自前の核無しで戦えば、負けるしかない」と思ったことでしょう。

 全ての「大隊長級以上の将校」が読めば、軍は声高に核開発を叫び始めるかもしれません。楊相勲主筆の呼びかけがどこまで届くのか、注目です。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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