ニュートラルな仕組みでインフラを維持管理する――加藤 崇(フラクタ会長)【佐藤優の頂上対決】

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 ロボットベンチャーをグーグルに売却した起業家が、次に取り組んだのは「水道」だった。環境ビッグデータをAIで解析する水道管劣化診断によって、管路を守り、維持コストも低く抑える。すでにこの画期的技術は日米で導入が進んでいるが、それはインフラ・デジタル革命の始まりに過ぎなかった。

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佐藤 シリコンバレーにお住まいだとうかがいましたが、いつ帰国されたのですか。

加藤 昨晩です。時差ボケで、本日は午前2時から起きています。

佐藤 それは大変ですね。最近は日本にどのくらいの頻度で戻られているのですか。

加藤 1~2カ月に1度くらいでしょうか。仕事でほんの数日だけ滞在して戻る、というのを繰り返しています。

佐藤 私もかつては毎週のようにモスクワに行っていました。あの頃は、いつも足がパンパンに浮腫(むく)んで辛かったですね。つくづく飛行機は寿命を縮める乗物だと思いましたよ。

加藤 ほんと、そうですよね。

佐藤 本日は、お忙しい中、お時間を作ってくださり、ありがとうございます。ご著作『水道を救え』(新潮新書)を拝読しました。加藤さんは、「Googleに会社を売った初めての日本人」として知られています。それはロボットベンチャーの「SCHAFT(シャフト)」という会社でしたが、その次に取り組まれたのが「水道」だったことに驚きました。環境ビッグデータとAIを用いた水道管路の劣化診断というのは、とても目の付け所がいい。

加藤 これによって、膨大な水道管路をどこから交換すればいいのか、優先順位がつけられます。これまでは破損した箇所や古い場所から交換していましたが、腐食の進み具合にはバラツキがあります。古くても傷んでいないところもありますし、新しくても腐食が進んでいる場所がある。それがわかると、交換費用の削減ができます。

佐藤 素晴らしいアイデアです。でも、どうして水道だったのですか。

加藤 もともとはロボットで石油やガスのパイプラインの点検をしようと考えていました。最新のロボット技術を使って、配管の厚みの減り具合を計測するつもりでした。

佐藤 そちらも可能性がありそうです。

加藤 けれども、石油会社でもガス会社でも、ほとんど相手にされなかったんですよ。というのは、「インテリジェント・ピグ」という技術があって、それで事足りていたんですね。配管の中へ、外周にセンサーの付いた筒状の装置を水圧で押し込むのですが、かなり雑なテクノロジーなんです。

佐藤 加藤さんからすると、物足りないわけですね。

加藤 もっと精緻に分析したほうがいいのに、と思ったのですが、ピグを使うと、安くて早いんですよ。それで他に配管があるところを考えたら、あ、水道がある、と気が付いた。

佐藤 初めから水道に照準を合わせていたわけではないのですね。

加藤 コンサルティング会社のように、市場を分析することで、水道という有望市場を見つけたわけではなく、石油がダメならガス、ガスがダメなら水道と、片っ端から体当たりしていった結果なんです。

佐藤 そうしたら、非常に大きな問題を抱えるところに行き当たった。

加藤 はい。アメリカには160万キロ、地球40周分の水道管が埋まっています。そして破損漏水が、年に24万件も起きている。そもそも水道インフラが古い上に、計画的に交換がなされておらず、交換のペースも遅い。現在のやり方だと、必要な箇所を交換するのに200年くらいかかります。それに多くは場当たり的に、壊れた箇所から修復していたんですよ。

佐藤 大きな鉱脈を見つけた感じですね。

加藤 ただ、いざ水道管の中にロボットを入れてみると、走れる距離に限界があった。どんなに速くロボットを走らせても、水道を止めている間だけしか進めず、160万キロという途方もない距離を踏破するのは無理だとわかったんです。

佐藤 そうなると、方法を変えるしかない。

加藤 その通りです。それでロボットを捨て、データを活用することにしました。ピボット(業態転換)と言いますが、ロボットからソフトウエアに切り替えた。これは大きな決断でした。それから水道管の材質、使用年数、漏水歴、地上の道路の有無、そして人口や天候、土壌など、環境の変数約千項目を対象としてアルゴリズムを構築したんです。これにより1~5年以内に水道管が破損する確率が計算できます。

佐藤 そこはもっともAIが得意とするところですね。

加藤 ええ。AIで水道管路の状態をデータ解析したほうが、より正確ですし、低コストでもあるんです。

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