ニュートラルな仕組みでインフラを維持管理する――加藤 崇(フラクタ会長)【佐藤優の頂上対決】

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空想から科学へ

佐藤 もうすでにさまざまな地域で活用されているようですね。

加藤 いまでは、全米28州82社が採用し、日本でも愛知県豊田市や福島県会津若松市、兵庫県朝来(あさご)市など38の事業体で採用されています。

佐藤 日本の水道はどんな状態にあるのですか。

加藤 アメリカに比べればマシですね。日本には約67万6500キロの水道管があります。法定耐用年数は40年と決められていますが、約15万3700キロは1980年以前に整備されたものです。ただ、先にお話ししたように、耐用年数を超えても使える水道管はありますし、それ以前に腐食するものもあります。

佐藤 日本の水道がマシなのは、地方自治体が管理していることもあるでしょうね。

加藤 管理されてはいるのですが、お金をうまく使えていない。不必要な箇所を交換して、必要な箇所を放っておくから、水漏れが起きます。これまでは、それを判断するテクノロジーがなかった。だから、予算の使い方が正しいか、オーディット(監査)することもできなかったのです。

佐藤 つまり加藤さんがなさっているのは、水道における「空想から科学へ」ということですね。

加藤 その通りです。そこに一覧性のあるソフトがあれば、効率的に水道管の交換ができます。

佐藤 水道には民営化の議論もありますね。自治体がやれば官僚的仕事の惰性から生じる無駄があり、一方、民間企業はビジネスチャンスと考えているだけで、社会的共通インフラを担う意識が低い。両者は平行線をたどって交わりません。

加藤 民営会社が入ってくると、アメリカでもイギリスでも同じパターンで、あそこが悪い、ここが悪いと言い始め、配管を丸ごと取り替えようとします。さらに貯水池も浄水場も新しくして、皆様にクリーンな水をお届けします、という話になる。そして交換を進めていきますが、一方で水道料金をバンバン上げていくんですね。交換費用や新設費用を減価償却する以上にプロフィット(利益)を乗せて、8~12%くらいの利益が出る構造にしてしまう。

佐藤 水道は他に選択肢がありませんから、値上げされても断れない。

加藤 我々は水道のプロフェッショナルだ、と言われると、もう黙るしかない。そこに客観的な尺度がないからそうなってしまう。

佐藤 圧倒的な情報格差がありますね。一昔前の医師と患者の関係のような。

加藤 そのたとえに倣えば、僕たちはレントゲンを作ったということです。誰が見ようと、レントゲン写真に影があれば、病気の可能性があるとわかる。そうした誰もがわかる客観的尺度を持ち込めば、状況は大きく変わります。

佐藤 水道インフラは、都市機能の基礎です。古代ギリシアでは大都市ができませんでしたが、ローマは大都市になった。それは水道インフラがあったからです。水道インフラが破壊されると、都市機能はまひする。それは、いまウクライナで起きていることです。

加藤 その通りですね。ただ僕たちは、いろいろ紆余曲折を経たこともあり、その重要性に後から気付いたところがあります。だから「加藤さんのおかげで水道がうまく管理されています」と言葉を掛けられると、ちょっと恥ずかしいんです。

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