半導体戦争で板挟みになる韓国 米国の圧迫と中国の嫌がらせ…頼みの綱は日本の輸出管理撤廃

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中国から突然のビンタ

――駐日大使が担当外の韓国を叱りつけるとは……。

鈴置:米国にとって韓国の脱落は絶対に許せない、ということでしょう。このニュースは日本ではほぼ無視されましたが、韓国では中央日報が報じました。「駐日米国大使『韓国も中国に対する半導体輸出統制に参加すべき』」(1月10日、日本語版)です。

 ブルームバーグの記事を引用しただけの短い記事でしたが、普通の韓国人が読めば「もう、とぼけ続けるわけにもいかなくなったなあ」と思ったはずです。

 ところが、米国の圧迫が強まった瞬間、中国からビンタを食らいました。1月10日、駐韓中国大使館は「本日から訪問、商業貿易、観光、医療と個人的事情を含む韓国国民の中国訪問用短期ビザの発給を中断する」と発表したのです。

 理由は「コロナによる入国規制への報復」です。中国でのコロナ感染急拡大を受け、韓国は1月2日から中国での短期ビザ発給を原則、中断していました。中国からの入国者への感染検査も実施しています。

 同じ1月10日、中国は日本人に対しても短期のビザ発給中止を発表しました。日本はビザは止めていませんが、中国からの入国者に検査を実施しており、中国はそれへの対抗措置と説明しました。

 中国からの入国者に検査を課している国は、フランスやイタリアなど日韓以外にもあります。そこで韓国では「韓日だけに報復したのはアジア蔑視だ」といった批判が起きました。

中国で4割弱を生産するサムスン

 そんな時に、日韓に対してだけ短期ビザの発給を止めたのは「コロナ検査」ではなく「半導体封鎖網」への牽制だ、との見方が韓国で広がりました。

 news1の「『中国のビザ報復』は始まりに過ぎぬ…『半導体、地政学リスク』に対応せねば』」(1月15日、韓国語)のポイントを翻訳します。

・現在、サムスン電子は西安と蘇州で、SKハイニックスは無錫、大連、重慶で[半導体]工場を運用している。ここに派遣される韓国籍の駐在員は短期ビザではなく180日以上の就業(Z)ビザの発給を受けており、今回の措置による影響はない。
・問題は一般(S2)・商業貿易(M)ビザである。中国長期駐在ではなく、3-4カ月の短期出張の場合は通常、このビザの発給を受けるが、中国政府の今回の措置で発給の道がふさがった。
・半導体産業では、中国での生産ライン修理などのためには短期の出張で対応する。業界関係者は「現地に行っている人材が担当する業務以外の状況が発生した場合、対応が困難になることもある」と語る。
・このため、防疫は単なる名分に過ぎず、実際には「Chip4」(韓国、日本、台湾)など、米国が中心となる半導体供給網に参加[しようと]する韓国・日本に対する報復との解説が浮上する。

 ライン修理のための技術者派遣が困難になれば企業が困る、という図式は半導体産業に限りません。また、日本企業の、例えば自動車メーカーの中国工場も同じリスクを抱えたわけです。

 というのに、この記事が半導体問題として大騒ぎしたのは、半導体が韓国の主力産業であることに加え、その中国依存度が異様に高いからです。

 この記事によると、サムスン電子はNAND型フラッシュの38%を中国で生産しています。SKハイニックスはDRAMの50%が、NANDの25%が中国生産です。

「中国工場が止まってもいいのか」

――中国のビザ停止は本当に半導体封鎖網への反撃なのでしょうか?

鈴置:確証はありません。ただ、韓国で「封鎖網に参加したら大変なことになる」と悲鳴が上がったことにより、少なくとも結果的に極めて有効な反撃になりました。韓国はますます中国の顔色を見て行動するようになるでしょう。

 コロナが収まった後、韓国のビザ発給や検疫体制が緩めば、中国も韓国人ビジネスマンへの短期ビザ発給を再開するかと思われます。今後、中国が入国の緊急性が高いと認めた韓国のビジネスマンには短期ビザを出すなど、停止措置を弾力的に運用する可能性もあります。

 ただ、今回の措置により「いざとなったら、韓国半導体メーカーの中国工場を操業停止に追い込めるんだぞ」という脅迫カードを中国が手にしたのも事実です。

 韓国では「半導体封鎖網に参加するしかない」との声が出始めていました。「いくら中国で儲けているにしろ、米国から同盟を打ち切られたらお終いだ」との意識が広がっていたからです。中国によるビザ停止はその空気を一気に委縮させることになります。

 空気の広がりのタイミングから考えても、中国の当局が「コロナ」を名目に「半導体」分野での反撃を始めた、というこの記事の見立ては大筋で間違っていないと思います。

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