ブラジルやアメリカだけでなく…中間層の怒りで世界の政治は危機に陥る

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「我々の民主主義は持ちこたえた」?

 ルラ氏が勝利した大統領選は当初、ルラ氏の大幅リードが伝えられていたが、終盤になってボルソナロ氏への支持が急速に高まった。ボルソナロ氏のもともとの支持基盤は農家や宗教保守派、元軍人らに限られていたが、ロシアによるウクライナ侵攻で燃料や肥料などの価格が高騰し、市民の暮らしぶりが急速に悪化すると支持の裾野を一気に拡大させた(1月11日付日本経済新聞)。

 選挙後もボルソナロ氏支持者は「ルラ氏が掲げる手厚い貧困対策で自分たちの生活水準はさらに低下する」「ルラ政権では中間層に支援の手が届かない」と危機感を強めており、熱狂的な支持者がこれに押される形で議会襲撃という暴挙に出た。

 世界各国は今回の襲撃事件を一斉に非難し、相次いでルラ政権への支持を表明した。

 バイデン米大統領は9日、ルラ大統領と電話協議し、ブラジルの民主主義と国民の自由意思に対する揺るぎない支持を伝えた。

 バイデン大統領はワシントンの議会襲撃から2年となった6日、ホワイトハウスで式典を開いていた。その席上「我々の民主主義は持ちこたえた」と自賛したが、米国の中間層の生活ぶりも悪化の一途を辿っている。

 米国では最も裕福な人々がさらに裕福になっている。低賃金労働者はインフレで家計が圧迫されているものの、人手不足を追い風に歴史的な賃上げを勝ち得ている。だが、中間層の人々には明るい要素はほとんどなく、収入が伸び悩んでいる(2022年12月5日付ビジネスインサイダー)。

 中間層の人々にとって悩みの種は富を築く伝統的な手段だった不動産価格が下落していることだ。一方、インフレがなかなか収まらず、賃金も停滞していることから、「現在の収入で生活費を賄うことができない」と痛切に感じている。

 米国では近年「政治の危機」が叫ばれているが、中間層が長期にわたって縮小したことが主な要因の1つだ。中間層がさらに苦境に陥ることで米国政治の不安定化が一層進むことが危惧される。

 米国では「トランプ前大統領が復権するとファシズム化が進む」と警戒されているが、1930年代のファシズムは中間層の不満が原動力になっていたというのが定説だ。

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