妻に“赤ちゃん言葉”で甘えたせいで夫婦関係に深い亀裂が…45歳夫が不倫相手を「ソウルメイト」と呼ぶ衝撃の理由

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シングルマザーの宣代さんに惹かれ…

 30代になってからは「赤ちゃんプレイ」からは離れていた。現実的に仕事が忙しかったし、女性に愛されることがそれほど重要だと思わなくなったからだ。恋愛も結婚も遠いできごとに感じられた。

「諦めていましたね。大学生になってから、周りがどういう家庭で育ってどんなふうに親子関係を築いているのか、なんとなくわかるようになったので、うちはやっぱりひどい家庭だったと認識したんです。あんな家で育ったら、“普通の”恋愛とか結婚なんて無理だよなと思うようになった」

 38歳のとき、彼は宣代さんと仕事関係で出会った。それまで会ったことのない、さっぱりした朗らかな女性だったが、話を聞くとシングルマザーだという。

「シングルマザーでも、こんなふうに生きることもできるんだと、思わず自分の母親を比べてしまいました。婚家で心を病んだ母と、ひとりで肩で風を切るように生きている宣代。僕はとても宣代とつきあえるような人間ではないと思っていたけど、彼女、ぐいぐい押してきたんですよ。何度も食事をしたりしているうちに、彼女になら人生を預けてもいいかなと思うようになりました」

 彼女には付き従っていても無条件に愛されるわけではなかった。いちいち「あなたはどう思うの?」と意見を求められた。だから自分が彼女を守りたいという意識も芽生えた。だが、そこで無理が生じた可能性もあると彰良さんは言った。

「彼女と結婚したのは僕が41歳のときなんですが、その前後からまた赤ちゃんプレイをするようになりました。それが僕の息抜きになっていた。彼女の前の僕と、本来の僕を使い分ける必要があったのかもしれません」

 だからまさか妻の前で赤ちゃん言葉が出てしまうとは、自分でも思ってもいなかった。ショックだったし、気恥ずかしかった。言い訳も見つけられず、彼は自暴自棄になりかけているところだったという。

 宣代さんはそれについては容認すると言っているし、彰良さんの気持ちを素直に話せばいいだけのことだと伝えると、「赤ちゃんである自分を宣代さんには認めてほしくない」と言い出した。彼女にはあくまでも、ひとりの大人の男として相対したいのだ、と。だが人にはいろいろな性癖や趣味があるもの。恥じることもないと言ったが、彼は受け入れようとしなかった。意外と頑固なのだ。

ソウルメイトみたいな人妻

 彼がふっと話題を変えた。

「さっき、僕、えげつなさでつながった女性がいると言いましたよね」

 そうだった。宣代さんとはポジティブな関係でいられるが、えげつないところでつながっている女性がいると確かに言っていた。

「僕、根本的なところで自己肯定感のない人間なんです。宣代といるとそう思わないですむんだけど、でもやっぱり本当は自分なんて……というのが根っこにあるから、ときどき疲れてしまう。そんなとき、同じように自己肯定感のない女性といると楽になれる。そんな人がいるんです」

 それは風俗である赤ちゃんプレイの店の女性ではなく、別の風俗に勤めている人妻なのだという。

「赤ちゃんプレイの相手をしてくれる女性と仲良くなって、彼女の友人と3人で食事に行ったことがあるんです。それで紹介されたのが人妻のアイちゃん。本名は知りません。年齢は30代後半くらいかな。でも僕たち、たぶん本気でつきあってると思う」

 話が混沌としてきてしまった。アイさんが風俗に勤めていることを夫は知らない。彼女はお金のためではなく、自分を必要としてもらいたくて働いているそうだ。

「僕自身は彼女の店に行ったことはないし、行くつもりもありません。ただ、アイちゃんに会って話したとき、同じ世界に住む人だと直感で思ったんです。彼女もそう思っていたみたい。ふたりで会うようになってから、話を聞いたら、彼女は母親にネグレクトされて育ったそう。母親が自宅に男性を引っ張り込んでいたらしく、彼女は子どものころから母親の性の営みを隣の部屋から盗み見ていた、と。『普通に大きくなったような顔をして、短大を出て就職、結婚したけど、私の心の暗い部分は誰にも見せられなかった。だから風俗で働くようになったの。ときどき、心が通じるお客さんがいる。そういう人がいると思えるだけで救われるような気になった』と言ってましたね」

 心の底の暗い部分で引き合う関係は、あまり前向きとは言えない。互いのネガティブさが足し算ではなくかけ算のように増えていく。ただ、彰良さんはそのあたりも自覚しているそうだ。

「アイちゃんは、家庭は家庭で幸せだと言うんです。だったらそれでいい。僕らはときどき会って、暗い部分を確かめ合うだけでいいんじゃないかと思っています。ある意味ではソウルメイトみたいな感じなんだけど、一緒に暮らす関係にはなれない気がして。でも会うのを辞めたら僕らはそれぞれ心が崩壊するかもしれない」

 互いがかろうじてセーフティーネットのようになっているのだろうか。だとしたら、宣代さんはどうしたらいいのだろう。

「宣代とはポジティブな側面でうまくいっていると思います。赤ちゃんプレイがバレたのは気恥ずかしくて、どうしたらいいかわからないけど……。いっそからかってもらったほうがいいかもしれない。彼女もどう対処しようか迷っているみたいだから」

 それとなく宣代さんには伝えておくと言って、彰良さんと別れた。振り返って彼の後ろ姿を見ると、大柄な彼の背中が小さく見えた。

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