“暴動”も起きた韓国のマンションバブル崩壊 国民の借金体質が金融・通貨危機を招く

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悪魔の二者択一

――こんなに大きな副作用があるのに韓国はなぜ、金利を急速に上げたのでしょうか。

鈴置:それしか手がなかったのです。先ほど申し上げたように、上げなければドルとウォンとの間で金利差が生まれ、資本逃避が起きてしまったでしょう。

 韓国は1997年と2008年の2回、資本逃避による通貨危機に陥りました。1997年の危機では「IMFの統治」を受け入れざるを得ませんでした。「2度と恥はかきたくない」というのが韓国民のコンセンサスです。

 日本でもドル金利の上昇により円が売られ、ドル高円安になりました。が、日本人は韓国人ほど心配しなかった。日本は豊富なドル建ての資産を持つうえ、政府も企業もドルの借金に頼っていないからです。韓国の国債は原則ウォン建てですが、企業はまだドル建てで借金しています。

――利上げの悪影響がこれだけ出ている韓国。今からでも金利を下げることはできないのですか?

鈴置:ドル金利は2023年も高止まりする模様です。下手にウォン金利を下げれば、資本逃避が起きます。韓銀も利下げどころか「依然として高水準の物価が続く以上、当面は利上げ基調を継続する必要がある」(12月8日のイ・サンヒョン副総裁補の発言)との姿勢を打ち出しています。

 韓国は悪魔の二者択一を迫られてきました。ドル不足に陥ってデフォルトするか、ウォン不足に陥ってデフォルトするか、の二択です。とりあえずはドル不足を避けるという道を選びました。しかし、そのためにウォン不足に陥っている。

 今後、高金利のために金融システムが動揺すれば、振り出しに戻ってドル不足に陥る可能性があります。金融システムが動揺する――金融機関の経営がおかしくなれば、外国の金融機関もドルをさっさと引き上げるからです。

 2回の通貨危機も根には金融システムの動揺がありました。1997年は起亜自動車など財閥の相次ぐ倒産、2008年は円キャリ―トレードの失敗によるノンバンクの破綻ラッシュです。

 金融不安が資本逃避を呼んだら元も子もありません。韓国は米国の動向をにらみながら、金融緩和のチャンスをうかがうでしょう。

運否天賦の韓国

――それまでに「金融システム不安」が現実化しないでしょうか。

鈴置:韓銀は企業のCP(コマーシャル・ペーパー)の買い入れを増やすなど、積極的に資金を供給しています。経営が悪化した金融機関に対する強制的な資本注入を可能にする法案も準備中です。

 対症療法ではありますが、できることは手を打って嵐が過ぎ去るのを待つ、ということでしょう。韓国は運否天賦(うんぷてんぷ)の国なのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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