「確かな安心」のある相互扶助の社会をつくる ――永島英器(明治安田生命保険相互会社取締役 代表執行役社長 )【佐藤優の頂上対決】

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 新自由主義やグローバル資本主義が浸透して企業の利潤追求が加速する中、個々人の一生はますます不確実性を増している。この不安の時代に一層大事になってくるのは保険だが、明治安田生命は、万が一の事態への備えとともに二つの取り組みを始めた。これからの保険会社の役割と目的と理念。

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佐藤 日本最初の近代的生命保険会社・明治生命をルーツに持つ明治安田生命は、「相互会社」という特殊な形態の会社組織です。株主は存在せず、保険の契約者が社員という位置付けになっています。

永島 はい。契約者が1人1票で自治を行う、保険会社だけに認められた会社形態で、その根源的な理念には、契約者同士の「相互扶助」があります。

佐藤 2000年の保険業法改正で株式会社への移行が簡素化されると、いくつかの会社が株式会社化しました。

永島 当時は、株式会社化して、株式市場から資金調達し、経営基盤を安定させることが重視される風潮もあったと思います。

佐藤 ただそれだと株主が生まれて、彼らに振り回されることもある。アクティビストやヘッジファンドが大株主になると、株主還元が強く求められます。

永島 2013年に前任の根岸秋男が社長に就任した時、私は企画部長でした。就任時のメディア対応で想定問答集を作りましたが、当時は、株式会社化しないのか、とよく聞かれたものです。でも1年半前に私が社長になった時には、もうそうした質問はなかった。むしろ相互会社でよかったですね、と言われたくらいです。

佐藤 その後、日本でも新自由主義やグローバル資本主義が進んで、利潤だけを追求することの弊害が大きくなってきましたからね。

永島 その中で相互主義的な価値観が見直されていると思います。株式会社に関しても、アメリカではベネフィット・コーポレーションという、社会や環境に配慮し公的な目的を持つ形態が生まれました。例えばアウトドア用品メーカーのパタゴニアは、「Going public(株式公開に進む)」ではなく「Going purpose(目的に進む)」と言って上場せず、株式を環境保護団体等に譲渡しました。

佐藤 保険会社だけに相互会社形態が認められているのは、保険の性質がその形態によくなじむからだと思いますが、永島さんは保険の役割の重要性に引かれて、生命保険会社を志望されたそうですね。

永島 大学時代に「国家とは何か」を授業で学ぶ機会があったんですね。国家が税金を徴収したり、法律に違反すると身柄を拘束したりすることを正当化できるのは、市民と国家の間に契約があるからだといったような内容です。

佐藤 ホッブズやロック、そしてルソーの社会契約説ですね。

永島 はい。実はルソーの社会契約説を後にいろいろな学者が補完しているんですよ。その中に「保険説」があり、ルソーの社会契約とは保険契約に他ならないと言っている。つまり国は税金という名目で保険料を集めていて、いざ外国が攻めてきたとか、災害が起こったとか、そういう時に救いの手を差し伸べる。それは保険給付にあたるというわけです。

佐藤 保険の仕組みで国家機能が説明できる。

永島 ええ。それを大学の授業で聞いて、非常に面白いと思ったのです。人類の相互扶助という崇高な目的は、国家と保険会社こそが果たすことができるのではないでしょうか。ただ当時から少子高齢化が進むといわれていましたから、やがて税金を払う人が少なくなり、日本という国はきちんと相互扶助の機能を保てなくなる可能性がある。すると保険会社の役割がすごく大きくなる、そう考えたのです。

佐藤 年金や健康保険などを考えれば、まさにその通りになっています。

永島 ジャック・アタリは「保険会社は第二の国家になる」といった趣旨のことを述べています。そこまでならなくても、保険会社が国家と補完関係にあることは間違いありません。そして生まれてくる国は選べませんが、保険会社は選べます。ですから弊社としては、お客様が健康で安心して暮らせるように日々の生活に寄り添い、確かな安心をお届けすることで、お客様に選ばれる会社になっていかなければならないと考えています。

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