「堺・父弟殺人」で無期懲役判決 実の父親に「インスリン大量投与」、弟は「練炭自殺偽装」で殺害した女の闇【前編】

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脳死状態の父

 事件が起こったのは、「大一水道」という会社の事務所である。創業者は朱美・聖光姉弟の父母で、両親はそこの2階を住居としていた。同社は事務所や店舗などの建築工事を主業とし、弟はこの会社で研鑽を積み、6年前に独立。一方の朱美容疑者はこちらを3年前に継承している。

「捜査に着手し、朱美の周辺にちょっとした“事件”が起こっていたのが分かりました。1月20・26日の両日、朱美の父が過度の低血糖状態で病院に搬送されたんです。いまだ意識は戻らず。いずれの日も、別の場所で暮らす朱美が前泊していました」(同)

 父親は大の甘党で糖尿病とは長い付き合い。低血糖と聞くとインスリンの大量摂取が思い浮かぶが、愛知みずほ大の佐藤祐造学長によると、

「インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉に取り込み、血糖値を下げる働きをする。脳神経細胞は栄養をブドウ糖に依存しているので、インスリンを大量摂取すると血液中のブドウ糖がなくなり、脳死状態になったり亡くなる可能性があるのです」

 長く脳死状態だった父親は、6月28日に死亡が発表された。実は、父親はかねてステージ4の大腸がんで肝臓にも複数転移していたという。その点から言えば、朱美容疑者の前泊と父親の異変との間に因果関係を求めるのは、些か乱暴だとするムキもあろう。

スプレー噴射と中傷ビラ

 事件が動き始めたのは4月下旬のこと。聖光さんの死去から1カ月が経過しようとしていた。

「聖光さんの自宅ガレージのクルマや自転車に赤色の塗料が吹き付けられているのが発見されました。加えて同日、近所に『中傷ビラ』がまかれたのです」

 と話すのは、社会部デスク。ビラはフリーライターが警察関係者、救急隊員、病院関係者らに取材をした体裁になっている。

〈奥様と(ある)男性がコソコソ話をしているのを、看護師たちも見ています。親密な仲に見えました〉

〈足立氏を自殺に追い込み、まんまと会社社長の座を手に入れた〉

 などと、聖光さんの妻と聖光さんが経営する会社の番頭との只ならぬ仲をあげつらい、口を極めて罵っている。他方、朱美容疑者のことは〈お姉様に関しては、非常に義理人情に厚い人で、頭のいい優しい人だと皆が言います〉と持ち上げるのだ。

「ビラについて聖光さんの妻から府警に相談がありました。防犯カメラを分析したところ、朱美とよく似た女性、そして彼女所有のクルマが写っていた。『スプレー噴射事件』でも同様だったので、器物損壊と名誉毀損の容疑で府警は朱美の自宅とその関係先にガサをかけました。それが5月24日のことです。捜査員の中には殺人などを担当する1課の刑事も参加していたので、既に弟殺害の疑いを持っていたのでしょう」(同)

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