もやしの乗った「浜松餃子」誕生秘話 元祖の店主は「形だけパクった餃子が増えすぎた」

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静岡県浜松市は、栃木県宇都宮市と並ぶ「餃子の街」として知られる。丸く並べられた餃子の中央に「もやし」が盛られているのが浜松餃子の特長だが、いかにしてこの形に至ったのか。その元祖とされる店の取材に、フードライターの適掃夫氏が成功した。

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「アイデアは自分が食べたものの中から知らん間に出てくる。だからこそ職人たるものは食い道楽になれ。僕はそう思うね」

 およそ80軒の餃子専門店がある浜松に、孤高の料理人がいる。「鍋貼強子 きよ」の主人・加藤幸雄さん(74)だ。浜松餃子の元祖でありながら、加藤さんは浜松餃子を名乗らず、独自の餃子「鍋貼強子(こうていぎょうざ)」を厨房で包んでいる。カウンター7席とテーブル3席の決して広くない店内に、三々五々と常連客が入ってくる。

 今回、取材に同行したのは「浜松市やらまいか大使」で流通アナリストの渡辺広明氏。彼も「きよ」を愛する一人だ。

「僕の実家がすぐそこでね、ウチの親父が体調を崩すまでほぼ毎日この店に通っていたんです。親父がお土産を持ってくることもあったから、餃子がうまいのはずっと前から知ってたけど、ひとりで餃子を食べながらここで飲むようになったのは親父が死んでから。大将がときどき僕の知らなかった親父のエピソードを話してくれると、なんだか親父と酒を飲んでいるような気がしてね…(以下略)」

 カウンター越しの加藤さんが「渡辺さんのお父さんは、そうやってペラペラ喋らずに黙って男らしく飲んでたよ。いや、おしゃべりするのが悪いってことじゃないけどさ」と笑顔でツッコミを入れる。そうしている間にも近所の人がお皿を持参し「きよ」の餃子を求めにやってくる。地元民に愛され続けて62年。だが、「きよ」の餃子は変わらないどころか、進化し続けてきた味だった。

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