幸せな老後のための「五つのM」とは 「老年医学」の新常識を米在住医師が明かす

ドクター新潮 健康 長寿

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単に年齢を見るべきではない

 先ほども述べたように、高齢者の診療に際しては、単に年齢を見るのではなく、その患者さんの身体機能、認知機能、心の状態等々、多角的に老化具合を見ることが適切な治療につながります。米国でその基本指針となっているのが五つのMなのです。

 具体的には次の5項目です。

(1) Mobility=からだ(身体機能)

(2) Mind=こころ(認知機能・精神状態)

(3) Medications=くすり(ポリファーマシー)

(4) Multicomplexity=よぼう(多様な疾患)

(5)Matters Most to Me=いきがい(優先順位)

 まさにこの五つのMこそが、老後を豊かに過ごす“処方箋”となっています。

 それぞれのMの重要性は、言われてみれば当たり前のことかもしれません。しかし、五つのMを多角的、総合的に考えることがポイントなのです。それでは、ひとつずつ見ていきたいと思います。

高齢者が大腿骨を折ると1年以内に……

 第1のMは「Mobility(からだ、身体機能)」。高齢者にとって、そもそも体が健康であることの重要性は言うまでもありませんが、それだけでなく体を「動かせること」が大事です。

 例えば、病気やけがで10日間ベッドの上で寝たきりで過ごすと、筋肉量が平均約1キロ減少するというデータが存在します。平均的な男性の筋肉量は体全体でおよそ20キロですから、わずか10日間ベッドの上で過ごすことにより、全体の5%もの筋肉を失うことになるのです。いかに日頃から「動ける体」を維持することが大事かが分かるでしょう。

 その上で、高齢者にとって特に怖いのは転倒です。大腿骨を折った高齢者の場合、その後1年以内に最大で37%もの人が何らかの理由で命を落とすという報告がなされています。

 転倒して下半身のどこかを骨折すると、歩行が困難になり筋肉量が落ちます。例えば、寝たきりになると、感染症のリスクも高まる。また、手術に関連した合併症で亡くなってしまう方もいます。さらには、「転倒後症候群」に悩まされる方もいる。二度と転倒したくないという恐怖心から歩行自体を恐れ、活動量が減り、すると当然、筋肉が衰えてかえって転びやすくなるという悪循環に陥ってしまうケースがあるのです。転倒は、高齢者にとってまさに生命の危機をもたらすライフイベントといえます。

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