カチコミに「高速バス」、餞別は5万円、内縁の妻は涙の嘆願……山口組抗争の陰で「哀しきヒットマン」法廷レポート

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「俺が行きます」

 最初の襲撃を終えると、組長は「自転車を投げ込んだくらいじゃインパクトはないが、よくやった」と若頭を労ったという。だが、その後も店が営業していることを知った組長は「もう1回行け」と2回目を指示したそうだ。2回目の襲撃を終えた若頭は当初、3回目の襲撃を渋ったものの、組長は「おまえが行かないなら俺が行く」と発言したことで、若頭が「俺が行きます」と志願したという。

「2回目の襲撃時に組長は、若頭に“よろしく頼む。できることは何でもする”と語ったようです。とはいえ、手渡されたのは現金5万円ほど。バールや消火器は組長が襲撃のためにと若頭に買い与えたものとされます。また、襲撃に関するやりとりはプリペイド式の携帯電話で行われていたようで、記録はすべて当局が押収し、確認しています。こうなっては言い逃れも難しいでしょう」(全国紙社会部記者)

 法廷で2人は「カタギには迷惑をかけない」と事前に決めてから事件を起こしたとしているが、検事や裁判官からは「でも、営業時間中にも襲撃していますよね?」と問い質されて答えに窮する場面もあった。“カタギへの配慮”とは見受けられず、双方から厳しい口調で詰問されていたため、正直なところ、心証は良くないだろう。

内縁の妻が流した涙

 それでも、被告人側の弁護士は、切り札とばかりに組長の内縁の妻を四国から証人として呼んでいた。

 証言台に立った彼女は、涙をこらえるように震える声で心境を明かした。組長との間には小学生の息子がおり、子どもの面倒を見てくれたことを感謝していると語り、「父親の逮捕や不在からくるストレスやショックを抱えている。1日でも早く戻ってきてほしい」と訴えて証言台を後にした。傍聴席に戻ってからも、人目をはばからず何度も何度もハンカチで涙を拭っていた。若頭にも内縁の妻が提出した嘆願書があり、一部も紹介された。そこには、「何度もヤクザをやめるように指導してきた」綴られていた。

 しかし、検事から襲撃に行く際の様子を聞かれた若頭は、「(内縁の妻は)“行かないで”と泣いていた。後ろ髪を引かれようが、嫁が泣きつこうが俺にはこういう生き方しかできないんや」と率直な心境を吐露した。最後に「暴力団をやめるつもりはありますか?」と尋ねられると、「そのときにならんとわからん」「襲撃は組長の指示やない。俺が一人でやったことや。そこのところを間違えないでほしい」と裁判官に告げている。結局、2人とも懲役5年を求刑されて審理は終結した。

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