56年前の「自白」音声テープを供述心理学の第一人者が読み解く【袴田事件と世界一の姉】

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証拠排除された供述調書が無実を語る

 2015年、つまり巖さん釈放の翌年、警察・検察の取調べの一部を記録した47時間の録音テープの存在が判明し、証拠開示された。弁護団の依頼でこれを分析したのが、供述心理学の第一人者、浜田寿美男・奈良女子大名誉教授だった。

 まず、テープの一部を紹介する(以下、松本久次郎は警部、岩本広夫は警部補、松本義男は巡査部長)。

◆1966年8月18日昼(早朝に任意同行されたこの日の夜 逮捕)
袴田:それじゃ、俺がやったって誰が言うの?
松本(久):うん?
袴田:俺がやったって誰が言うの?
松本(久):という。誰が(不明)。
袴田:あんたがただけじゃないの。
岩本:証拠があるな。
松本(久):今言ったようにな、証拠が言うじゃないか。俺が言わなくっても、証拠が言ってるよ。パジャマが言ってるよ。
袴田:そんなもん、あるもんか。
 (中略)
袴田:まあ、あんたがたね、本当にすごい自信をもって言ってるけどね。
岩本:うん、うん。
袴田:じゃあ犯人、ほかに犯人あがったら、どうする?
岩本:うん、他に犯人あがったら、ないよ、あがりっこない。
袴田:上がるだろう、必ずあがる、必ずあがるだろう、必ずあがる。

◆8月28日夜
松本(久):血液だな、血液がついてたら、うん。
袴田:僕の。
松本(久):うん。
袴田:首を。
松本(久):うん。
袴田:やります。
松本(久):うん。
 (中略)
松本(久):な、男だろ? それ(鑑定書)に書いてあれば、な? お前さんの負け、書いてなけれや俺の負けだ。ええか、じゃ、書いてあるか、ないか、(不明)見せるから。いいか? その時に、やっぱり、袴田、女々しいいこと言うなよ。ここに書いてあれば。
袴田:はい。

◆9月4日深夜(自白2日前)
松本(久):お? あ? おまえさんはリングに上がって、な、あの勝ち名乗りを受けた時の気持ちになりなさい。お? な。お前も男じゃないか。(中略)お前、遠州男児やろ?
 (中略)
袴田:すいません。小便行きたいんですけど。
松本:小便は行きゃええがさ。やるからな。小便行くから。な。その間にイエスかノーか、話してみなさいっていうじゃないか。
(中略)
岩本:警部さん、トイレ行ってきますから。
松本:べ、便器もらってきて。ここでやらせばいいから。
(筆者注:便器はいわゆる「おまる」。警察官は取調室内で排尿させ、録音テープにははっきりと排尿の音が聞こえる)

◆9月6日午前(自白時の録音はなく、自白直後)
岩本:(中略)その甚吉触ったこと思い出してみ。おまえさん、な、甚吉触ったことを思い出す。(不明)な。
(筆者注:「甚吉袋」とは腰からぶら下げる分厚く大きな布製の袋。会社の集金した現金が入っていたが、工場と被害者宅の裏口の線路のそばに落ちていた)
袴田:手拭い。
岩本:うん?
袴田:確かにあった。
岩本:(中略)甚吉の袋をさ、それも話せにゃだめだ。
袴田:奥さんが。
岩本:奥さんが、そう……。お?
 (中略)
袴田:持ってきた覚えない。

◆同日夜
岩本:ああ、そうか、じゃ「甚吉」って言葉、どこで覚えた。
袴田:ええまあ(不明)、甚吉、甚吉って。
袴田:えーっとね、そんな硬いもんじゃなかったですね。こうやってたから。
岩本:違うだろ。大きい袋の中に金が入ってただな。袋が?
 (中略)
岩本:今、全部こう、4人ともうご、動かなくなったんだな。
袴田:ええ。
岩本:うん、それから裏木戸行ってどうした?
袴田:あそこけ破って表へ出たです。
岩本:裏の、裏んとこの木戸をけ破って裏に出てそれからどうした?
袴田:(不明)考えた。考えたです。
岩本:どこで考えた?
袴田:裏でたとこです。
 (中略)
岩本:(不明)次にどうした。
袴田:油に火つけたです。

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