アンモニアを燃料にして火力発電所を脱炭素化する――小野田 聡(JERA代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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グローバルエネルギー企業へ

佐藤 アンモニアの混焼はもう始まっているのですか。

小野田 昨年6月から愛知県の碧南火力発電所で、燃料の20%を石炭からアンモニアにして、大型の火力発電所で運転できるか確認するための実証事業を進めています。現在、アンモニアを燃やすバーナーを開発するための試験を実施しているところで、かなり少量ですが、実際にアンモニアを混焼し、発電しています。試験で開発したバーナーを使用したアンモニア20%混焼での実証、これを2024年度に行います。

佐藤 実機で行っているのですね。今後のタイムスケジュールをどのように描かれていますか。

小野田 私どもの計画では、2020年代の後半には20%混焼を本格化させて、30年代前半には50%以上の混焼を開始し、40年代にはアンモニア100%での発電までもっていこうと考えています。それにはバーナーだけでなく、アンモニアをたくさん燃やせるボイラーの開発が必要ですし、先ほどお話ししたアンモニアを調達するためのサプライチェーンの確立も不可欠です。

佐藤 水素燃料による発電も、同時に進めていくのですか。

小野田 燃焼温度の特性から、アンモニアには石炭火力のボイラー、水素はLNG火力のガスタービンで混焼していきます。水素を混焼した実証試験も始めていきますが、先ほどお話しした輸送の問題が非常に大きいので、まずはアンモニアですね。

佐藤 JERAはこうした方針を、菅前総理の2050年カーボンニュートラル宣言の直前に打ち出されていました。

小野田 私どもは、国内には化石燃料による火力発電所しか持っておりませんので、将来に向けてどうすればいいか、という議論はずっとしてきたのです。2020年に入ってから発表する内容を議論して、同年10月に「JERAゼロエミッション2050」を公表したのですが、それが菅総理の宣言の2週間前でした。

佐藤 トランジション(移行)燃料と呼ばれているのはLNGですが、それに代わるものになる。それも数十年にわたるトランジションですから、会社員にとっては生涯の仕事になります。

小野田 おそらく2050年になると、火力発電所の燃料は大きく変わっていると思います。2050年の事業環境を見通すことは難しいですが、だからといって、2050年を待つのではなく、できることからやっていきます。いまある火力発電所を利用して、少しでも二酸化炭素を削減できるなら、そうしたほうがいい。

佐藤 特にアジアの諸国はそうするしかないでしょうね。

小野田 いまのアジア諸国の経済成長と電力供給を支えている石炭火力発電所を全て止めてしまうことは現実的ではありません。その既存の発電設備を使って、燃料をアンモニアに替えていったほうがいい。

佐藤 もう具体的に話が進んでいる国はあるのですか。

小野田 当社は、フィリピンの大手電力会社であるアボイティス・パワー社、バングラデシュの大手発電会社であるサミット・パワー社に出資しています。これらの会社の脱炭素ロードマップを共に策定し、LNG火力や再生可能エネルギー、さらに水素・アンモニアの導入を進め、両国の経済成長を支える電力の安定供給と脱炭素化に貢献していきます。

佐藤 両国とも日本に好感情を持っていますから、とてもよい選択だと思います。そこで実績を作って東南アジアへ拡大していくのは、極めて正しい戦略です。

小野田 コロナ禍直前にバングラデシュを訪問して、ハシナ首相とお会いしました。同国は労働人口が多いのですが、産業が少なく、そのため仕事も少ない。そこで、発電所の建設に関わることで、働く場を作り、そこで働く人の教育もお手伝いしたいとお話ししたら、非常に興味を持ってくださいました。

佐藤 ヨーロッパもロシア・ウクライナ戦争で変わりつつあります。

小野田 ヨーロッパでは、昨年、あまり風が吹きませんでした。このため、洋上風力発電による発電量が例年より少なく、LNGを多く使ったことにより、地下貯蔵分が少なくなっていました。その状況下で、ロシアによるウクライナ侵攻が起きたため、ヨーロッパでは燃料が足りていない状況が続いています。再生可能エネルギーだけの考えから、ガス火力や原子力が容認され、石炭火力の稼働も増えているのが現状です。

佐藤 背に腹は代えられませんからね。

小野田 そうした中で、アンモニアや水素による火力発電は、電力を安定供給しながら再生可能エネルギーを支える現実的なアプローチだと思います。このアプローチを、経済成長が著しいアジアを中心に世界に広めていき、グローバルなエネルギー企業として、共に成長し、共に発展していきたいと考えています。

小野田 聡(おのださとし) JERA代表取締役社長
1955年愛知県生まれ。慶應義塾大学工学部卒。同大学院工学研究科機械工学専攻修了。80年中部電力入社、火力部、企画部などを経て2003年火力部計画部長、07年執行役員発電本部火力部長、13年取締役専務執行役員発電本部長、18年副社長執行役員兼発電カンパニー社長ののち、代表取締役。19年より現職。

週刊新潮 2022年6月9日号掲載

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