銃痕あり「ヤクザ幹部」が住んでいた家はお買い得か 全国初の「マル暴物件」競売に応募者ゼロの理由

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“暴力団組員宅を市が買い取って一般売却へ──”。兵庫県尼崎市による全国初となる取り組みに各方面から注目が集まっている。背景にあるのは、頻発する抗争事件に慄く市民社会と、暴対法施行にともない急増する脱退組員問題といった複雑に絡み合う要因だ。「画期的で重要な試金石」と評価する声が多い一方で、一筋縄ではいかない展開も予想されている。

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 尼崎市が売りに出した物件は、同市南武庫之荘にある棟続きの3階建ての住宅。約73平米(宅地部分)の広さで、売却価格は土地と建物を合わせて2434万円。周辺相場と比べると、かなりの割安という。

 市が同物件を購入したのは昨年4月。価格は1800万円だった。今年2月から競争入札を開いているが、いまだ応募はゼロという。

 その最大の理由と見られるのが、同物件の“前住人”だ。実は特定指定暴力団・山口組系の幹部の自宅だったのだ。

「そもそもは警察から住人の組幹部が自宅を売却したい意向だとの情報提供があったのがきっかけです。地域住民からの要望に加えて、別の暴力団関係者への転売を防ぐために緊急措置として購入することになりました」(同市公有財産課)

 2020年11月、同物件に銃弾が撃ち込まれる事件が発生し、近隣住民の不安は極度に高まっていたという。同物件の玄関脇には、いまもその時の銃弾痕が残っていて、文字通りの“瑕疵物件”となっている。

自宅は「暴対法」対象外

 これまで、自治体などが組事務所を買い取るケースは複数あった。暴力団対策法で組事務所は使用禁止の対象となっている反面、組員宅は対象外。理由は事務所と違い、住居は「(組員の)生存権にかかわる」として、厳格な適用対象から外されたためだ。

 法的な裏付けがないことが、自治体側が直接購入に二の足を踏む要因のひとつであり、尼崎市の買い取りが全国初となった理由でもある。

 警視庁暴力団担当(マル暴)刑事として約40年間、暴力団と最前線で対峙してきた櫻井裕一氏がこう話す。

「組事務所や組員宅が近隣にある住民の不安は相当なものです。抗争時などに間違って襲撃されるリスクに常に怯えなければならないのですから。今回の尼崎市のケースのように、幹部宅であれば、敵対する組織の情報収集活動などで、幹部の自宅住所が名簿に載っている可能性もある。名簿の更新は頻繁に行われるわけではありませんから、いまだ買い手が付かないという状況もある種、当然といえます」

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