「東アジアのトルコ」になりたい韓国、「獅子身中の虫」作戦で中国におべっか

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 米国回帰を謳う尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権。だが、韓国観察者の鈴置高史氏は「それは口だけで米中二股外交に変化はない」と見切る。証拠はIPEF(インド太平洋経済枠組み)である。

米主導のIPEFに加入

――韓国がIPEFへの参加を表明しました。

鈴置:5月23日、訪日中のJ・バイデン(Joe Biden)大統領は13カ国が参加するIPEFの創設を宣言しました。結成会議には尹錫悦大統領もリモートで参加し、挨拶しました。

 聯合ニュースの「尹大統領 米主導IPEFで『韓国も責任果たす』」(5月23日、日本語版)から尹錫悦大統領の発言を拾います。

・IPEFが開放性・包容性・透明性の原則に基づき推進されることを期待する。
・インド太平洋地域の共同繁栄時代を開くために力を合わせよう。韓国も堅固な連携に基づき責任を果たす。

――韓国内の反応は?

鈴置:「米国との同盟を強化できる」との安堵が広がりました。前の文在寅(ムン・ジェイン)政権の反米・従北・親中政策により、韓国は国際的に孤立。米国や日本とはもちろん、ゴマをすったはずの中朝からも相手にされなくなって内心、心細く思う人も多かった。

「中国からタコ殴り」の追憶

 ただ同時に「中国から報復されるであろう」との恐怖感も韓国人は抱きました。THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備を巡り、中国からタコ殴りにされた記憶が生々しいからです。

 2016年、朴槿恵(パク・クネ)政権が中国の反対を押し切って在韓米軍基地へのTHAAD配備を認めました。すると、基地の敷地を提供した韓国ロッテ・グループは中国での流通事業を徹底に邪魔され、撤退を余儀なくされました。中国人の韓国旅行も大幅に制限されましたし、テレビ番組やゲームなどソフトも中国への輸出がパタリと止まりました。

 米国が主導するIPEFは「中国包囲網」以外の何ものでもありません。具体策は固まっていないものの、バイデン政権がこれまでに発表した経済安全保障の報告書から察するに「中国抜きの国際分業体制を加盟国で構築する」意図は確実です。

 日本ではIPEFをTPP(環太平洋経済連携協定)の亜種のように解説する人が多い。しかし、冷戦時代にソ連などへのハイテク製品の流出を防いだココム(対共産圏輸出統制委員会)の後継の枠組みと見た方が正確と思います。

 TPPは中国以外の製品の関税を下げることにより、中国を仲間外れにする手法です。一方、IPEFは関税といったまどろっこしい手口は使わずに、中国への技術移転や貿易、投資を制限する即効性の高い方法をとることになりそうです。人権侵害国などの名目は付けるのでしょうが、実態は「潜在敵国だから封じ込める」のです。

「ロシアの次」の標的

――中国は怒っているでしょうね。

鈴置:「怒る」というよりも「恐怖」でしょう。中国は経済的な自立を目指し、半導体などハイテク産業を育成中です。IPEFの発足により、この計画が頓挫する可能性が高まった。中国からすれば、首にかけられたロープがこれから締まっていくのです。

 少し前までなら「仮想敵だからと言って商売まで止めはすまい」とタカをくくっていられました。でも、ロシアがウクライナに侵攻した瞬間、西側は直ちに半導体などの対ロ輸出を止めました。

 西側の国は米国が掲げた「自由と民主主義を守る」との旗印の下に結束したのです。この団結ぶりは予想外だったでしょう。そして、米国が次の矛先を中国に向けるのも確実です。

 IPEFは2021年10月から米国が提唱し始めましたが、「5月下旬に日本で発足させる」と発表したのは米国東部時間5月17日のことでした。メンバー集めが困難と見られていたこともあって、予想外の早さに驚く向きが多かった。この早さこそは「ウクライナ効果」でしょう。

 中国は直ちに反応しました。同じ5月17日深夜に中国共産党の対外宣伝紙、Global Timesが「US envoy reveals Biden’s true purpose of targeting China by Asia visit, but experts say ‘countries don’t easily buy it’」を載せ「IPEFは成功しない」と唱えました。強がって狼狽を隠す感じの記事でした。

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