「東アジアのトルコ」になりたい韓国、「獅子身中の虫」作戦で中国におべっか

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QuadはQuad

――韓国が「獅子身中の虫」とは米国も知っているのでしょうか。

鈴置:十分に知っているからこそ、Quadに入れないのでしょう。もし加入させれば、中国と呼応して内側からQuadを揺さぶるのが明らかだからです。

 韓国は中国とは敵対しない「準メンバー」などというムシのいい資格で潜り込もうとしましたが、米国ははっきりと拒絶しました。

 ホワイトハウスのJ・サキ(Jen Psaki)報道官(当時)は5月2日の定例会見で「韓国をQuadに入れるのか」との質問に対し「QuadはQuad(4カ国)のままであろう。韓国とは別途の仕組みで協力する」と冷たく突き放しました。

「韓国との関係改善を急ぐ」と表明している岸田文雄首相も、5月24日に東京で開いたQuad首脳会議の冒頭挨拶で「地域諸国と歩む」として「ASEAN(東南アジア諸国連合)、南アジア、太平洋島嶼(とうしょ)国」を挙げましたが、韓国は無視しました。

 「韓国を入れるつもりはないから、甘い顔をするな」とのお達しが米国から来ていたのかもしれません。「Quad入りを日本が邪魔したら、米国に怒られるぞ」といった情報を韓国政府が流しては日本政府にQuadの扉を開かせようとしていたからです。それを真に受け「大変だ。米国に怒られる!」と言って回った日本の専門家もいたほどです。

トルコかベラルーシか

――韓国の裏切りに対し、米国はどう対応するのでしょうか。

鈴置:日本と組んで半導体素材の供給を絞る手があります。また、韓国が通貨危機に陥った際にドルを貸さない、といった手口も有効です。これも日本と歩調を合わせる必要がありますが。

 米ドルの相次ぐ利上げによりウォンが弱含み、資本逃避の懸念が日増しに高まっています。韓国銀行も追従してウォン金利を引き上げていますが、いつまで続けられるか分かりません。

 韓国ではカネを借りて株やビットコイン、不動産に投資する――ミニバブルが発生していました。急激に金利を上げれば、このバブルが崩壊しかねないのです。

 そこで追従利上げをせずにウォンを防衛する切り札として、日本と通貨スワップを結ぶべきだ、との声が日増しに高まっています。韓国は「岸田政権は騙しやすい」と見ていますから「日韓通貨スワップを結ぶべきだ」といった声を日本で上げさせようとするでしょう。もっとも、それを米国が許すのかは不明です。

 1997年の通貨危機の際、米FRB(連邦準備理事会)は日銀に対し「韓国にドルを貸すな」と指示してきました。当時の金泳三(キム・ヨンサム)政権が中国に米軍の情報を流すなど、韓国の「裏切り」が目に余ったからです(『米韓同盟消滅』第2章第4節)。

 尹錫政権は「親米」を謳いますが、「従中」に変わりはない。「東アジアのトルコ」にお灸を据えるのか。2022年3月の大統領選挙で文在寅氏以上の反米政治家、李在明(イ・ジェミョン)氏が当選していれば、韓国は「ベラルーシ」になっていた。それと比べればましなので、とりあえずは見逃すのか――。米国の判断がカギとなります。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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