「東アジアのトルコ」になりたい韓国、「獅子身中の虫」作戦で中国におべっか

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サムスンの工場を人質に

 中国にとって特にショックだったのは翌5月18日に、中国に従順な韓国政府も加盟すると明かしたことだったでしょう。同日夜、Global Timesは「GT Voice: S.Korea can’t allow chip sector to be hijacked by US geopolitics」という見出しの論説を載せました。ポイントは以下です。

・All these moves reflect a reality that China, as the largest market for semiconductor applications, can help strengthen the position of major players in the global semiconductor supply chain.

「米国の主導するIPEFに加盟すれば韓国の半導体産業に悪い影響が出るぞ。中国が世界最大の半導体市場であることを思い出せ」と脅したのです。現在、サムスン電子とSKハイニックスが中国で半導体工場を増設中であることも記しました。「人質はとってあるからな」ということでしょう。

 Global Timesは翌5月19日も「GT Voice: US Indo -Pacific economic scheme doomed to fail as original TPP did」と「Biden to peddle new economic framework in Asia as ‘ geopolitical tool’ to counter China」の2本を掲載、改めてIPEFへの敵意をむき出しにしました。参加国を1カ国でも減らしたかったと思われます。

――脅された韓国はすくみあがったでしょうね。

鈴置:保守系紙の朝鮮日報は社説「『安米経中以後』 政府と企業は共に備えよ」(5月19日、韓国語版)で「IPEF加入で米国との同盟は経済・価値にまで拡大する。中国との国交樹立以来の『安全保障は米国に頼り、経済は中国に頼む』という時代は終わったことを覚悟せよ」と、報復に備えるよう説きました。

 それでも結論部分では「米国主導のIPEFに参加すると言っても中国との協力・友好関係は維持せねばならぬ」と中国への恐怖心もにじませました。

 ハンギョレは左派系紙らしく「韓国が米中の間で一方を選択したように見えるのは国益次元でも望ましくない」と主張しました。社説「韓国のIPEF加入、『中国デカップリング』憂慮を払拭せよ」(5月18日、韓国語版)です。

FTAで抜け道

――IPEFに入る以上、米国側に付いたと見られて当然と思いますが……。

鈴置:韓国政府はIPEFを無効化する小陰謀を凝らしているようです。ハンギョレの「韓国の新政権、IPEF参加確定…試験台に立たされる韓国外交」(5月19日、日本語版)がちらりとそれを報じました。

・[大統領府]国家安保室のキム・テヒョ[金泰孝]第1次長は、「IPEFを単純に大国同士の敵対的デカップリング(脱同調化)とみなす必要はない」とし、「中国とは韓中FTAの後続協定について協議しているが、そこではサービス市場だけでなく、円滑な市場開放に向けて中国と共に準備している」と強調した。
・これと関連して大統領室[府]関係者は本紙に「韓中FTA交渉をしている産業[通商資源]部通商交渉本部に、韓中サプライチェーンの安定のため協力のしくみを作る必要があると指示した」と明らかにした。中国の反発を最小限に抑えるための動きだ。

 中韓FTAは2015年12月に発効、2017年12月からはFTAをさらに深化するための交渉に入りました。当初はサービス貿易や投資の自由化に関し話し合っていましたが、ここに来て商品の供給を円滑にするための交渉を始めた、というのです。

 中国と西側の対立が深まった際――例えば、中国が台湾に侵攻した場合、米国はIPEF加盟国に対し中国への半導体の供給を絞るよう命じることになるでしょう。

 その時「商品の円滑な供給を約束した韓中FTAがあるので、米国の要求には応じられない」とはねのける仕組みを韓国は作り始めたのです。

「獅子身中の虫」作戦で哀願

――尹錫悦政権も知恵を絞りましたね。

鈴置:韓国はもう1つ、米国の裏をかく作戦を練っています。IPEFに創業メンバーとして入ることで発言権を確保し、対中包囲網の色合いを薄める――です。

 この作戦について複数の新聞がさりげなく報じていることから見て、政府高官が匿名を条件にメディアにレクチャーしたと思われます。韓国人特有の対中恐怖心により、IPEF加入への反対が盛り上がるのを政府は防止したかったと思われます。

 中央日報の「<韓米首脳会談>尹大統領はIPEFで役割獲得狙う…バイデン氏の構想は中国の締め出し」(5月20日、日本語版)の最後の部分が以下です。

・一部では「かえって中国とも緊密な関係を維持する韓国が初期から参加することが、IPEFが反中路線に流れるのを防ぐ緩衝役を果たすことができる」という対中論理が可能だという意見もある。

 東亜日報の社説「あらゆる道を共に行く韓米の価値同盟、国益と実用の外交で裏付けるべきだ」(5月23日、日本語版)も中央日報ほど露骨ではありませんが、結論部分で以下のように書いています。

・IPEF初期の議論から積極的に参加し、包容的交易秩序を構築する国益と実用の外交力を見せなければならない。

 「包容的交易秩序」とは「中国など特定の国を排除しない貿易ルール」を意味します。それを実現するために「初期の議論から積極的に参加せよ」と唱えたのです。

 冒頭で紹介したように、そもそも尹錫悦大統領こそがIPEF参加表明の際に「開放性・包容性・透明性の原則に基づくべきである」と主張しています。

 米国の目的はもちろん「中国排除」であり、「開放性や包容性」とは間逆です。最初から中国を敵国として設計する制度ですから「透明性」などあるはずがありません。

 米国に喧嘩を売るようなこの発言。大統領自身が中国に向け「反中色を薄めて見せますから――獅子身中の虫になってみせますから、加入を認めて下さいね」と哀願したものだったのです。

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