肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方4 転移のない状態でみつかっても治療成績が厳しい「膵がん」の全体像

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ステージ0で発見されるのが理想だが

進藤:現場の実感としても、膵がんはものすごく増えていると思います。このコロナ禍において2020年は当院でも一時的に手術の件数が減りましたが、患者さんの数が減ったというよりは手術の対象とならない進行膵がん(切除不能)が増えたという印象がありました。コロナで健康診断が延期したり、人間ドックの受診が控えられるようになったりしたことで発見が遅れたというのが理由の一つと考えられます。

 私が学生や研修医の頃は、膵がんは進行が早いから見つけたらすぐに手術だと教えられました。膵がんはそもそも悪性度が高いことに加え、膵臓という臓器の解剖学的な位置の問題(重要な血管や臓器に囲まれている)から外科の立場で治すということを考えるとまだまだ難しいがんだと思いますし、この20年で何か大きく変わったかというと新しい抗がん剤の登場と周術期の補助療法の考え方が出てきただけで、手術の考え方ががらりと変わったとか、予後が劇的に改善しているということまでは残念ながらまだないというのが実情だと思います。

大場:全体の統計数字からはそうですが、少しでも予後改善を目指すための治療各論については、別の機会で議論したいと思います。

 理想的には日常診療で、がんが発生してくる膵管の上皮内にとどまっている本当に早期の段階(ステージ0)で見つけたいところです。胃や大腸であれば、内視鏡検査でがんの発生母地を正確に観察できるわけですが、膵がんが発生してくる数ミリ程度の膵管の中を同じように検査することは現状、不可能だし、そもそも膵臓自体に焦点をあてて検査される機会もほとんどない。そのため、どうしても症状が出現してからの“後手の発見”になってしまうもどかしさはありますよね。

 早期診断の難しさの要因として、有効なスクリーニング検査法がないこと、高危険群(ハイリスク集団)を絞ることが難しいということも挙げられますが、要するに膵がんリスクを予測するうまい秘訣がないからこそ、日常診療中から疑って診るしかないわけです。なんらかの消化器症状があって診察してみると、胃や大腸が心配でも膵臓に無頓着な方がほとんどです。これまで他の病院で「ストレス」のせいにされ、腹部症状が一向に改善しない方の中には、実は膵臓疾患が原因と考えられる方も少なくありません。

 私の当クリニックの取組としては、血液検査でアミラーゼやリパーゼなどといった膵酵素の異常値がないかをできる限りチェックし、腹部超音波(エコー)検査を行う際には、膵臓をかなり重点的に観察するよう心がけています。必要であれば膵管形態に異常がないか、微小な病変がないかを、先ずは医療被曝の少ないMR胆管膵管造影検査(MRCP)などを追加して可能な限り把握するよう努めています。

手術だけでは治すことは難しい

進藤:おっしゃる通りで、膵がんは症状が出てしまっている状況ではほぼ進行がんですので、膵がんとなるリスクをどのように拾い上げ、早期に診断するかは重要なポイントですよね。他のがんと同様、膵がんになるかどうかはほぼ「運」ですし、誰でも膵がんになる可能性はあります。一方、膵がんの「前がん病変」(膵がんが発生する基礎となる病変)はいくつか知られています。

 詳細はまた機会を設けて詳しくお話できればと思いますが、一番多いのはIPMN(膵管内乳頭粘液腫瘍)と呼ばれ、比較的よく目にする疾患です。これは膵臓が作る消化液(膵液)を流している「膵管」の壁を構成する細胞が腫瘍化する病気です。膵管が太くなるパターンやのう胞でも3cmを超えてくるようなケース、のう胞の中にモコモコとポリープのような病変が見えるもの、大きくなるスピードが速いケースなどは癌化してきている可能性が高いと判断され手術の対象となります。これと似たような疾患でMCN(膵粘液嚢胞性腫瘍)という病気がありますが、こちらはより悪性化の可能性が高いため、基本的には発見されたら切除を行います。

 膵がんは小さいうちに見つかったとしても手術だけで治すことは難しいがんです。手術を行うとしても術前・術後の抗がん剤治療を加えることが多いですし、局所で進行している膵がんの場合も、まずは抗がん剤治療で切除の可否や意義を見極めるという考え方が一般的になってきていると思います。我々の持っているカードを全て使ってなるべく治癒や長期生存を目指す。切除可能な症例でも、そのくらいしないとなかなか治癒を得ることは難しいのが厄介なところだと思います。

大場:他のがん種では根治の可能性を目指せる「切除可能」という表現も、膵がんのケースでは、解剖学的にそうであっても腫瘍学的にもそうなのかを事前に見極めることも重要です。例えば、腫瘍マーカーCA19-9値が高いケースだと、すでに微小な全身性転移が存在していることもありますので。したがって、抗がん剤治療の介入は欠かせません。一方で、「切除不能」と従来考えられていた進行膵がんが、抗がん剤が奏功して切除可能な状態に転向(コンバージョン)できるケースも実際には増えてきていますよ。

 さらには、切除可能と切除不能の間にも、「切除可能境界(ボーダーライン)」と考えらえる膵がん状態もあり、手術の難易度も高くなってきますので、これまで以上に、診断・治療の技量を高めていく努力が必要な疾患ですね。以上の話から、もはや手術だけで勝負できるがんではありませんが、手術を軸とした治療でないと治せるチャンスは生まれない。でも、その手術クオリティが中途半端では外科的治療を受ける意味がないともいえますね。

 進藤先生にお尋ねしますが、膵がんの場合、どのような病院の選び方を心掛けたらよいでしょうか?

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