核ミサイルを発射すれば「ベルリンまで106秒」 ロシアの“脅し”…核が使用される条件とは?

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エスカレーション抑止

 核兵器は、戦略核と非戦略核に大別され、非戦略核とは、射程が短い戦術核や低出力核兵器を指す。

「戦略核というのは、ロシアからであればアメリカのワシントンやニューヨークまで届くほど射程距離が長く、威力が大きなものを指します。大きさがメガトン級のものもありますので、これが撃たれた時点で、世界が終わってしまうというレベルの兵器です。米ロは互いに、相手が撃ったら報復することになっているので、使わないことを前提にお互いを抑止し合う、そういう文脈にある核兵器です」(軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏)

 無論、プーチンが使う可能性があるのは非戦略核の方である。

「小型核といえど、小さいもので5キロトン未満、大きいものだと数十キロトンから100キロトン以上のものまであります。広島に落とされた原子爆弾が15キロトンだったことを考えると、小型核でもそれなりに威力が大きいことが分かります。その意味で、小型核でも使用には、政治的に大きなハードルがあることは間違いありません」(同)

 当然ながら核を使用するためには説得力のある「理屈」が必要、というわけである。その「理屈」として持ち出される可能性があるのが、「エスカレーション抑止」と呼ばれる概念だ。

「今すぐに核を使うという感じではない」

 防衛研究所主任研究官の山添博史氏が語る。

「ロシア軍の公式文書や規則には載っていませんが、その前提の上で考え方を説明すると、先にロシアが核兵器を使うことで相手側に援軍などを呼べなくして抗戦を諦めさせる、というもの。今回で言えば、NATOの直接介入を防ぐ、ということは目的になり得ます」

 先の黒井氏はこう話す。

「私が一番注目しているのはプーチンの言葉です。彼の言葉は非常に計算されていて、全てが次に何をやるか、その自己正当化の布石になっています。それを見ている限り、今すぐに核を使うという感じではない。もう少し脅しの程度が上がってきたら、というところではないでしょうか。ただ、アメリカがやり返してこないと踏めば、核使用に踏み切る可能性はあります」

 渋谷での反戦デモに参加していた26歳のロシア人女性に、核使用の可能性が指摘されていることについて問うと、しばらく絶句。そして、言葉を絞り出した。

「……そんな可能性は考えたくもないです」

 デモ参加者の30歳のロシア人女性(前出)は、

「核兵器を使用するなんて映画の中だけの話だと思っていましたが、その可能性がテレビで指摘されるようになったということはとても恐ろしいです」

 49歳のロシア人男性(前出)は、次の点を強調したいという。

「これはロシア対ウクライナの戦争ではない。プーチン対ウクライナ、専制主義対民主主義の戦いです」

 その過程で核が使用されるのか否か。残念ながら、見通しは混沌としている。

週刊新潮 2022年5月19日号掲載

特集「『5・9』後は未知の世界 プーチン焦燥の『核兵器』」より

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