老母と次男を殺害した46歳男に懲役28年の判決 凄惨な現場にいた「もう一人の男」に最後まで残った謎

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大谷被告の言い分は

 こんな五十嵐の説明に、当の大谷被告はどのような“反論”をしたか。被告は拘置所から五十嵐に手紙を書き送っている。そこには、

〈迷惑をかけたのに、お金の差し入れも何もしてくれなかった〉

 といった、事件とは直接関係のない内容が綴られているのみだ。大谷被告は3月4日の被告人質問で「五十嵐の指示だった」と弁護側の質問に答えただけで、検察官ほかの質問には黙秘していた。

 実は、公判では医師が証人出廷し、大谷被告のIQが52であること、軽度精神遅滞であることなどが明らかになっている。大谷被告が検察官の質問に流されることがないようにという、弁護人の配慮で黙秘した可能性がある。最終陳述において、大谷被告に改めて発言の機会があったが、

「埼玉の留置所に警察が来て、ご自分だけ『大谷さん』と大声でお呼びされ、ご自分は迷惑でした。手を出して暴れたら、ご自分は公務執行妨害で逮捕されると脅され、ご自分はトイレに逃げました……」

 と、難解な言い回しで捜査手続きについての不満を述べるのみだった。

 犯行はどのようにして行われたのか――大谷被告、五十嵐、それぞれの証言が不透明なまま、迎えた判決。小池裁判長は「現場に残されていた被告の着衣に付着した飛沫血痕が大崎さんのもの」であることなどから、大崎さん殺害の実行行為は大谷被告が行ったと認定。また入江さん殺害についても、大谷被告の着衣に入江さんのDNAが付着していたことなどから「被告人が裸の入江さんを浴槽に沈めたと推認される」とした。

 しかし、そもそも大崎さんが包丁を持ち出すことになったきっかけについては「大崎さんが五十嵐をいいように使っている関係に照らせば、口論に怒りを感じた大崎さんが包丁を持ち出すのは、五十嵐が車の運転を間違えただけで火のついたライターを近づける大崎さんの人柄からすると、ありえない話ではない」と、五十嵐が介護に負担を感じていることを大崎さんに告げたところ、大崎さんが包丁を持ち出した可能性があるとした。

 では、大谷被告がなぜ大崎さんを刺すに至ったか。「不満や恨みなどの理由は見当たらない」としながら「大崎さんと五十嵐の関係を目にしていた可能性があり、動機がないと言って殺害に至らないとは限らず、突発的な犯行も考えられ、被告人が大崎さん殺害の犯人で間違いない」と認めた。

 事件後、入江さんの口座の金は大谷被告によって引き出されており、五十嵐はその金で千葉県内のソープランドを利用していたこと、サカゼンで服を買っていたこともわかっている。一方、大谷被告が入江さんの金を使った形跡はない。大崎さんとの関係、入江さんの介護など、殺害動機があるように見える五十嵐。判決でも「各犯行に五十嵐の関与が疑われる」と指摘されたものの、不可解な点は残ったままだ。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
傍聴ライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)『つけびの村  噂が5人を殺したのか?』など。

デイリー新潮編集部

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