テクノロジーを使ってタクシーの未来を作る――川鍋一朗(日本交通会長)【佐藤優の頂上対決】

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「ライドシェア」を可能にしたIT、AI技術は、タクシー業界のビジネスモデルを大きく揺るがした。いま、日本交通はそのテクノロジーを取り込み、ITの会社も作って「配車アプリ」をはじめとするさまざまな新サービスに取り組んでいる。デジタルはタクシー会社をどう変えるか。

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佐藤 私は日本交通(日交)のヘビーユーザーです。透析に通っている大学病院に日交専用のタクシーステーションがあって、週に3回は利用しています。そこを管理している女性がとても気の利く人なんですよ。

川鍋 ありがとうございます。

佐藤 ベンチが二つあって、そこに介護が必要な人や病人、高齢者を優先的に案内しながら、とてもうまく差配されています。また日交のタクシーがいない時は、他社の車も呼び込んで配車している。

川鍋 お役に立てているようで、よかったです。弊社の専用乗り場は、21年前から大きなビルや病院などにお願いして、少しずつ増やしてきました。そこで気持ちよくタクシーに乗っていただければ、次回もまた弊社のタクシーをご利用いただける。そうすると運行管理者もドライバーも、自然といいサービスを心がけるようになると考えたのです。

佐藤 ドライバーのクオリティーも高いと思いますよ。道をよく知っています。「ナビではこう出ていますが、こっちを回った方が早いので、そうさせていただきます」と言うのは、日交の方が多いですね。

川鍋 ドライバーのプロ意識を高めることは最も腐心しているところです。昔は「タクシーは一期一会だから、いいサービスしてもしょうがないんだ」といった雰囲気もありました。でも専用の乗り場を作ったり、意識の高い人はそれに見合った待遇にするなど、さまざまな仕組みを作って、プロ意識を持つ質の高いドライバーを育成してきました。

佐藤 ドライバーにはランクがあるそうですね。

川鍋 3段階あります。ネクタイが違いますね。

佐藤 他社もネクタイの色が違いますが、日交は行燈(あんどん)の色にも違いがありますね。

川鍋 ええ、普通はブルーですが、基準を満たしたドライバーはゴールドです。また7台だけ桜色があって、これは「幸運のタクシー」と呼び、乗車された方には記念乗車証をお渡ししています。

佐藤 それは楽しい試みですね。

川鍋 ランクが上がっていくと、給与が上がりますし、無線やアプリの仕事が多く入るようになります。

佐藤 トップレベルになると、仕事も変わってくるのですか。

川鍋 弊社には「エキスパート・ドライバー・サービス」という事業があります。介護が必要な方やご高齢の方のお出かけをお手伝いする「サポートタクシー」、都内観光にご案内する「観光タクシー」、そして通学や塾の送り迎えなどに使っていただく「キッズタクシー」の三つですが、主にこれらを担当してもらっています。

佐藤 どれもスキルが必要なサービスですね。京都では「修学旅行タクシー」が収益の一つの柱になっています。

川鍋 京都のドライバーはみなさん、観光タクシーができますよね。私どもは勉強してさまざまな企画を立て、春なら「お花見タクシー」、秋には「イルミネーションタクシー」と言ってライトアップされたところを回るタクシーがあります。他にも「隈研吾 建築ツアーin Tokyo」などは好評でした。

佐藤 タクシーでのお花見なら、場所取りの必要がありませんものね。

川鍋 はい。こうした企画はドライバー自ら勉強しますし、楽しんでくれるんです。時に最近の若いドライバーは、もともと観光業界に進みたいと思っていた人もいますから、そこに向けて努力しようという気になる。

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