ウクライナの遺体映像をそのまま流すべきかで議論が勃発 デーブ氏は「猛省すべきはテレビより新聞」

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男児の遺体写真

 欧米の新聞人は、「1枚の写真」が世論どころか歴史をも変える力があることを知っているようだ。

「2015年に欧州難民危機が発生しました。中東を中心として大量の難民がEU諸国を目指し、各国がパニック状態になりました。その際、トルコ沖で難民を乗せた船が転覆、幼い男児の遺体が海岸に漂着したのです。海外メディアの中には配慮を示し、現地の警察官が遺体を抱きかかえた写真を使用しました。この場合、男の子の足しか映っていませんでした」(同・デーブ氏)

 ところがイギリスのインディペンデントなどは、波打ち際に横たわる男児の遺体写真を掲載した。顔は砂に押し付けられ、波に洗われていた。微かだが目も映っている。何よりも、遺体があまりに小さなことに言葉を失った読者は少なくなかっただろう。

「非常にショッキングな写真でしたが、だからこそ強い喚起力がありました。男児の遺体写真を載せたことで、ヨーロッパの難民問題への関心が高まり、多くの人が議論に参加したのです。やはり報道する価値があったのは、警察官に抱きかかえられたショットではなく、男児の遺体だったのです」(同・デーブ氏)

「日本の新聞社は物足りない」

 スペイン内戦(1936~1939)で兵士が死ぬ瞬間を捉えたとされた、ロバート・キャパ(1913~1954)の「崩れ落ちる兵士」は、“反ファシズム”の世論を喚起した。また長年、真贋論争が行われたことでも話題になった。

 ベトナム戦争(1955~1975)で米軍の攻撃から逃げる村人を、ベトナム人カメラマンのフィン・コン・ウト(71)が撮影した「戦争の恐怖」は、アメリカ国内の反戦運動にも大きな影響を与えた。

 特に全裸で泣きながら逃げる少女の姿は、戦争の悲惨さを伝える“シンボル”として受け止められた。彼女は後にファン・ティー・キムフックさん(59)と判明し、今は国際的な反戦運動家として知られている。

 1989年に起きた天安門事件では1人の男性が戦車の前に立ちはだかり、行く手を遮った。

 CNNやBBCなどのテレビ局が動画を、AP通信のカメラマンなどが写真を撮影。配信されると、全世界のメディアが放送し、掲載した。男性の素性は現在でも分からない点が多く、「無名の反逆者」と呼ばれている。

「視聴者に配慮することは大切でも、まさか『戦争の恐怖』に映った少女の顔にぼかしやモザイクをかけることは許されません。様々な視聴者を想定しなければならないNHKや民放キー局に制約が多いのは理解できますが、日本の新聞社は物足りないと思います」(同・デーブ氏)

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