上司や先輩に質問するのが怖い! そんな時に背中を押してくれるのは「経験をもらう」という意識

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 職場で分からないことを質問するのは勇気がいるものですが、ベテランアナウンサーとして頼られる日本テレビの藤井貴彦アナウンサーは、他の仕事よりも優先して、A4サイズで10枚ものアドバイスを送ったことがあるそうです。先輩からテクニックを引き出すためのコツを『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』から紹介します。

質問する時には「リスペクト」を込めて

 私が20代の頃はまだ時代が古かったためか、先輩に何かを教えてもらうことのハードルがとても高く、気軽に質問できるような雰囲気ではありませんでした。特に専門技術が求められる職種においては、職人から技術を教えてもらう神聖さを理解できない人が質問した場合、本当の答えは決してもらえませんでした。

 この「神聖さの理解」は専門職の世界にとどまらず、時代も職種も超えたキーワードなのではないかと思います。わからないからとりあえず誰かに聞いてみようという後輩と、どうしてもわからないから教えてもらいたいという後輩の違いは、先輩から見れば一目瞭然だからです。その違いはどこにあるかといえば、先輩の仕事ぶりや経験に対するリスペクトがあるかどうかです。

包みの中には、熱意が

 ここで系列テレビ局の後輩アナウンサーから届いた小包の話をさせてください。

 日本テレビは年末年始に、全国高校サッカー選手権大会の中継を行っています。その中継のために全国の日本テレビ系各局のアナウンサーが東京に集まるのですが、その中には何十年も携わっているベテランもいれば、今年が初めてという若手もいて、局の垣根を超えた師弟関係が生まれます。実はそんな若手の一人が、年末から始まる全国大会の前に、「皆さんのように実況がうまくなりたいので、私の実況を見てもらえませんか」と、DVDを小包で送ってきたのです。

 包みを開けると、試合の収録されたDVDとともに、自分が何に悩んでいるか、実況のどこがうまくいかないのかなど、厳しい自己分析をしたためた紙が入っていました。仕事への真剣さと、熱意が伝わってきます。こうなれば、私も他の仕事より優先して実況へのアドバイスをしてあげたくなります。

 実際に私は、A4サイズで10枚ほどの詳細な実況チェックを送り返しました。これはなかなか時間のかかる作業ではありましたが、コストパフォーマンスを超えた「やりがい」がそこにはあったのです。

 後日、その後輩から深い感謝の言葉とともに、地元名産「いぶりがっこ」が届きました。高額なものではないということでしたが、この仕事を大切に思う気持ちと、先輩から経験をもらうことへの感謝が伝わってきました。

 こんなふうに気持ちを伝えることができれば、先輩は自分の持っている全てのものを手渡してくれるはずです。普段から一緒に仕事をしている先輩に対しては、改めて感謝やリスペクトをしづらいかもしれませんが、そのありがたさを感じられた時、新たな道が開けていくはずです。

質問するのが苦手でも成長はできる

 では、私が若手社員だったころはどうだったか。

 私は、どちらかというと先輩の懐に飛び込むのが苦手でした。気軽に先輩に質問をしてはいけないと思っていましたから、なんとか自分で解決できないか、別の方法はないかをずっと考えていました。神聖さを感じすぎたことが障壁となり、アドバイスをもらいに行けなかったのです。

 ただ、これが独自の成長にもつながりました。

 私が当時最も悩んでいたのは、サッカーのコーナーキックの実況シーンでした。多くの選手が集まるゴール前にボールが蹴りこまれますが、そのボールを誰がシュートしたのか、または誰がクリアしたのかが、どうしても実況できなかったのです。

 今考えると、一度先輩に聞いてみたらよかったなあとは思うのですが、私にはそれができませんでした。

 そこで私はコーナーキックのシーンだけをたくさん集めたビデオを作り、何度も何度も見返しました。すると3日ほど経ったころでしょうか、小さなヒントが生まれてきたのです。このやり方なら、選手の名前をほぼ言い当てることができました。

 そのやり方とは「コーナーキックを蹴る選手を見ない」というもの。ゴール前に視点を固定しておけば、選手を見失うことがないということを発見したのです。またスピードの緩いコーナーキックであれば、シュートする前にその選手の名前を呼び始めることもできたのです。

 と、すっかりサッカーの話になってしまいましたが、今後は実況アナウンサーがゴール前のシューターを言い当てられるかに注目して、ご覧いただくのも面白いかもしれません。シュートを打つ前に選手名が言えるかどうかがポイントです。

上司からエッセンスを引き出すコツ

 お伝えしたかったのは、先輩に聞く前に必死で考えるという行動が、自分のストロングポイントを生み出すこともあるという例です。

 最近の先輩は何でも教えてくれますし、実際に優しくアドバイスをしてくれると思います。ただ、先輩に聞いていろいろなことがわかったとしても、先輩を追い越すことはできません。本当に飛びぬけた存在を目指すのであれば、人生のどこかの時点で泥臭い努力が必要になってくるのではないでしょうか。

 と、古いおじさんたちは考えていると理解しておくことが、上司からエッセンスだけを引き出す本当の仕組みです。ぜひ、ご利用ください。

 ***

※『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』より一部を抜粋して構成。

藤井貴彦(ふじいたかひこ)
1971年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。1994年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦、高校サッカー選手権決勝、クラブワールドカップ決勝など、数々の試合を実況。2010年4月からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務め、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの際には、自ら現地に入って被災地の現状を伝えてきた。新型コロナウイルス報道では、視聴者に寄り添った呼びかけを続けて注目された。

デイリー新潮編集部

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。