「初対面の人との会話」が弾むコツ “相手の体温を上げる”とは

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 初対面の人と話すときには“コツ”があるといいます。さまざまなメッセージを発信し視聴者からも高い支持を得ている日本テレビの藤井貴彦アナウンサーは“相手の体温を上げる”ことが大切だと語ります。『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』から紹介します。

 ***

相手も緊張しやすい初対面では「答えやすい質問」を用意する

 初対面の人と話をする場合に大切なのは、「相手の体温を上げる」ことです。

 日本テレビは箱根駅伝や全国高校サッカー選手権など学生スポーツを多く中継していますが、この中継で語られる選手のエピソードはほぼ全てアナウンサーが直接、選手から聞き出しています。ただ多くの人にとって「インタビューを受ける」という経験はそう何度もあるものではありません。当然、多くの学生は緊張しています。

 もちろんしゃべりたくて仕方がないという選手もたまにはいるのですが、大抵はきちんと質問に答えられるか心配な表情を浮かべています。

 こういう時には「相手の体温を上げる」質問が役立ちます。

 例えば、話が得意ではないという学生から話を引き出す場合は、なるべく答えやすい質問から進めていきます。

「名前に『速』という文字が使われていますが、誰がつけてくれたのですか?」というように、相手自身についての質問をすると当然答えられます。本人もしっかり答えられたことでコツをつかみ、自信を持ち、少しずつ「体温」が上がってくるのです。

 初対面の人とどんな会話をしたらいいかわからないという場合も同じです。相手の答えやすい質問から順番にしていくと相手の体温が上がってきます。その途中で、趣味が同じだったり、共通の友人がいたりした場合には、その瞬間から「体温」がすっと上がって何の心配もなくなります。

相手の体温が上がる質問の作り方

 ただ、どうしたら答えやすい質問が浮かぶのか、が問題ですよね。

 もし時間があるならば、少しでもいいので相手のことを調べておいてください。その下調べができれば、自然と「答えやすい質問」がみつかります。またこうした下調べに相手が気づいてくれれば、相手もうれしい気持ちになりますし、答えてくれようとする姿勢も変わってきます。

 テレビの収録でも、駆け出しの芸人さんがスタジオの観客を盛り上げる「前説」という時間がありますが、これも会場を温めることをねらっています。人は、体温が上がってこそ行動がスムーズになるのです。

 いいコミュニケーションには準備が必要です。10分でも20分でも相手のために準備をすれば、会話の体温は間違いなく上がっていきます。

それでも、上手くいかないときもある

 実は、私にも会話がうまくいかなかった苦い思い出があります。

 20代の頃、ホラー映画に出演されたある有名な俳優さんに、作品の見どころや演技のポイントなどを聞くインタビューを担当したことがありました。下調べもばっちりして、映画もしっかり見ました。質問案もスタッフと話し合って入念な準備を整えて当日を迎えました。相手は有名な俳優さんということもあって、もちろん緊張はしていましたが、この映画を多くの人に見てもらうためにがんばろうと、緊張を前向きなエネルギーに変えて準備をしていました。

 しかし、本番は狙い通りにいかなかったのです。

 俳優さんがインタビューの部屋に入ってきました。まだカメラは回っていません。私が「どうぞよろしくお願いいたします」と深々とあいさつすると、「はい」と言っただけで、まったく視線が合いません。目が合ったのは、音声担当のスタッフが俳優さんにマイクを付けた後、カメラが回り始めてからです。これでお話が聞けるとほっとしたのも束の間、私からいくつか質問をすると、「あなたはどう思ったの?」と質問が戻ってきます。答えてくれないのです。これには困りました。映画を見ていた私は、俳優さんの逆質問に必死に答えるのですが、本当にほしいのはその俳優さんの言葉です。結局インタビュー中には、私の質問にほとんど答えてもらえませんでした。

 何がいけなかったのか必死に考えました。下調べが間違っていたのか、あいさつがいけなかったのか、質問内容が稚拙だったのか……。結局、答えは出ませんでした。

 帰り道、スタッフがぼそっと言いました。

「あれは、機嫌が悪かったな」

 私に問題があったのかもしれませんし、単に機嫌が悪かったのかもしれません。でも、こんなことも起きるのです。伝わる仕組みでは解決できないことが、世の中にはいくつか転がっていることもお伝えしておきます。

 ***

※『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』より一部を抜粋して構成。

藤井貴彦(ふじいたかひこ)
1971年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。1994年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦、高校サッカー選手権決勝、クラブワールドカップ決勝など、数々の試合を実況。2010年4月からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務め、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの際には、自ら現地に入って被災地の現状を伝えてきた。新型コロナウイルス報道では、視聴者に寄り添った呼びかけを続けて注目された。

デイリー新潮編集部

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。