「ここは理想の職場か」 まったく意味がない理由
“楽がしたい怠け者”から生まれる「イノベーション(革新)」
新入社員が3日で辞表を持ってきたとか、何を考えているのかわからないという話題が世間を騒がせがちな季節だ。自分はこの職場にフィットしていないのではないか、ここではないどこかに自分の力を存分に活かせる「理想の職場」があるのではないか……。転職市場で価値の高い若者はそうした考えが頭をよぎりがちだ。
しかし、この悩みほど無為なものはないと喝破する人物がいる。49歳で大企業を飛び出し、還暦にして生命保険会社を起業した出口治明氏だ。出口氏はこう書く。
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49歳で大企業を飛び出し、60歳で生命保険会社を起業した出口氏が語ること
〈理想の職場を選ぶことは、若者が理想の相手を選ぶことと似ています。地球には70億人の人間がいて、女性と男性はだいたい半々です。そのうち結婚適齢期の人が半数ぐらいいると仮定すれば、それぞれ17億人ほどいる計算になります。17億人にも及ぶ人を丁寧にスクリーニングして、自分にとって理想のパートナーを見つけている人は世界中どこにもいません。たまたま出会った人と相性がよく、たまたま結ばれたにすぎません。人生を送るうえで何よりも大事なパートナー選びでさえ、その実態はほとんど偶然が左右しているのです〉(『「働き方」の教科書』)
就職活動で学生がアプローチする企業は平均30.6社だと言われている。一方、日本国内で営業している企業の数は421万社。世界に目を向ければ文字通り星の数ほどの企業が存在する。なるほど、本当の意味で「理想の職場」を見つけるなどというのは不可能なことだし、不毛なことだろう。であれば、そういう悩みは別のエネルギーに変える方が生産的。
たとえば理不尽な上司の理不尽な要求からいかにして身をかわし、楽をするかというゲームと思うのはどうだろうか。そもそもイノベーションは「楽がしたい怠け者」からこそ生まれるというのが、出口氏の愛する歴史の教えるところだ。
「アルファベット」も楽したいという一心から生まれたもの
〈メソポタミアには楔形文字の文化があり、エジプトにはヒエログリフがありました。シナイ半島は、メソポタミアとエジプトの中間にあります。そこに住む人々は、メソポタミアとエジプトの両者と交易をしていましたから、いつも楔形文字とヒエログリフで苦労していました。そこで、もっと簡便な文字をと考えて編み出されたのがアルファベットでした〉(『「全世界史」講義I』)
人類最大のイノベーションのひとつといっていいアルファベットも、楽したいという一心から生まれたものなのである。「ここは本当に理想の職場か」と悩むくらいであれば、楽がしたい、怠けたい、サボりたい、遊びに行きたいという気持ちを大切にすべきなのだ。