妻の「信じがたい秘密」を知って吐き気が止まらない… 43歳男性の苦しき胸のうち

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「カミングアウトしてもいいかしら」

 6年ほど前、上の子が小学校に上がるとき、浩之さん一家は芙美香さんの実家に引っ越した。芙美香さんが仕事を始め、義父が全面的に協力を申し出たのだ。賃貸マンションが手狭になっていたこともあるし、家賃を払い続けるより実家をリフォームしたほうがいいとふたりで話し合った結果でもある。

「義父は長いこと家の中のこともしてきたから、『オレにはかまわないでいいから。むしろオレが主婦になるよ』と言ってくれた。基本的には僕らが2階、義父が1階に住んでいて生活は別ということにしました。ただ、2階にお風呂を作るのはむずかしかったので風呂だけはひとつ。トイレと簡単なキッチンは2階にも作りました。義父は定年退職してからも週に4回ほどは働いていましたが、早めに帰れるからと、よく夕食は作ってくれましたね」

 芙美香さんは仕事が楽しそうだった。ただ、仕事の流れで食事をしてくることが増え、時には深夜に酔って帰宅することもあった。浩之さんは妻を縛りつけるつもりはなかったが、まだ年端もいかない子どもが母親を待っているのだからとやんわり行動を諫めた。そんなとき芙美香さんは「ごめんなさい」としおらしく謝る。だが、時間がたつとまた同じことを繰り返すのだ。同居している義父に心配されないよう気を遣いながらも、彼は妻を観察していた。妻の心の奥底に「荒んだもの」があるような気がしてならなかったのだ。

「結婚して10年たったころ、ほろ酔いで寝室に入ってきた妻が突然、『ねえ、カミングアウトしてもいいかしら』と言い出した。妻が自分の心の内を自ら話すのは珍しいから、ぜひ話してほしいと伝えました。すると『怒らない? 私を軽蔑しない?』と。聞いて見なければわからないけど、そう言うと話してくれないと思ったので、『何を聞いても軽蔑なんてしないよ』と言ったんです。妻の口からは『結婚前に中絶したことがある』という言葉が飛び出しました。正直言って、それほどショックではなかった。むしろ、なぜ今になってそう言うのか。そのほうが気になりました」

 なぜ今、それを? そう思ったときはおそらく相手には、それに関連した話をもっと掘り下げて告げたい意識があるのではないだろうか。浩之さんもすぐにそう感じ取った。だから「誰の子だったの?」と尋ねた。すると妻の目からぼろぼろ涙がこぼれた。それなのに、それ以上は話してくれない。

 何度かそんなことがあり、中途半端に聞かされる浩之さんには欲求不満がたまっていった。妻の気持ちがわからない。本当は何を考えているのか、あるいは過去に何があったのか。

早退した自宅で見た光景

 それから1年ほどたったある日、浩之さんは仕事をしながら体調がおかしいのを感じていた。会社が入っているビルの診療所に行くとインフルエンザにかかっていることがわかり、すぐに早退。仕事中の妻に連絡するのもためらわれたので、帰宅後にメッセージをしようと家路を急いだ。

 玄関を開けると妻の靴がある。今日は休みをとると言っていたかなと不審に思いながら入っていくと、義父の部屋から声が聞こえた。

「なんだ、聞いてなかったけど妻も早退したのかな、それとも有休だったのか。熱のある頭でぼんやりそう思いながら、そうっと義父の部屋を開けると、見てはいけないものを見てしまったんです」

 浩之さんはそこで口をつぐんだ。まさか、と思わず言うと、「その、まさかだったんです」と小声でつぶやく。

「妻と父親が……。その場で吐き気がして、あわててトイレに行って吐いてしまいました。物音に気づいたんでしょう、僕がトイレから出ると妻が立っていた。『どうしたの?』と妻はごく普通の口調で聞いてきました。それを耳にして、また吐き気がしてトイレにこもりました。僕は確かに見たんです。妻が義父にまたがっているのを」

 ふと見ると浩之さんの顔が青ざめている。無理に話さなくていいと声をかけたが、彼はうつむいたり空を仰いだり、水を一気に飲んだりした。なんとか自分を落ち着かせようと思っているのだとわかる。

「とにかくその日はインフルエンザの薬を飲んで寝ていました。寝室のドアに『立ち入り禁止。インフルエンザ発症』と書いた紙を貼って。夜、妻はおかゆを持ってきてくれましたが、僕はまともに妻の顔を見られなかった。翌朝、薬が効いて熱は下がりましたが、会社は5日間出社停止になっていたので、そのままベッドで過ごしました。妻は出勤したようです」

 階下は静まりかえっていて、義父がどうしているのかはわからない。そもそもあんな状況を娘の夫に見られたことを義父が認識しているのかどうかもわからない。

「高熱による夢なのかと何度も思いました。でも違う。現実だということを僕がいちばんわかっている。それでも熱のせいにしたかった」

 その晩、妻はまた食事を運んでくれた。浩之さんはどうしても黙っていることができなくなった。

「どういうことなのか聞かせてほしい」

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