元陸上幕僚長が提言「敵基地攻撃能力保有は急務」 現状では迎撃できない「極超音速ミサイル」

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迎撃ミサイルの数を上回るミサイルが発射された場合…

 とはいえ、これはあくまで飛来する数が少ない場合だ。ネックとなるのは、迎撃ミサイルの数を大きく上回る大量の弾道ミサイルが一度に発射された場合である。「飽和攻撃」と呼ばれ、これを受けてしまうと、すべての弾道ミサイルを破壊するのは難しいと言わざるを得ない。具体的に言えば、千発以上の弾道ミサイルを保有する中国からの飽和攻撃を受けると、そのすべてを撃ち落とすことは極めて難しいのである。

 それなら日本が迎撃ミサイルの数を増やせばいい、と考えるかもしれない。しかし、それはあまりに非現実的だ。というのも、SM3ブロックIIAは1発数十億円とされている。しかも、飛来する弾道ミサイルを確実に迎撃するには、1発に対して2発の迎撃ミサイルが必要となる。中国から千発の弾道ミサイル攻撃を受けたと想定すると、単純計算で2千発のSM3ブロックIIAが必要だ。仮にミサイル1発を50億円とすると、10兆円もの巨額な費用がかかる計算だ。

 しかも、発射システムや整備費用までを含めれば、その額はさらに膨らんでいく。今年度の年間防衛予算は過去最大の6兆1744億円に達するが、その約2年分に相当してしまう。いかに現実離れした策かが分かるだろう。

中国が保有する最新鋭の弾道ミサイル

 では、新たに登場した「極超音速兵器」への対応はどうか。こちらは通常の弾道ミサイルとは異なり、地表100キロ以下の低空を飛翔するため、地上の防空レーダーでは早期に捉えにくい。加えて自律変則軌道と呼ばれる予測不能な動きを伴うので、海自のイージスシステムでの捕捉も難しく、また自衛隊基地に配備されている巡航ミサイル用の対空ミサイルでは、確実に迎撃できる保証はない。

 1月12日に岸信夫防衛大臣は、前日の北朝鮮によるミサイル発射について、通常の弾道ミサイルより低い、地表50キロ程度の高度を最大マッハ10ほどの速さで東に向けて飛翔し、途中で北方向への水平機動も含めた変則的な軌道を取った可能性があると説明した。

 他方、ロシアは令和元年12月に射程約6千キロの極超音速ミサイル「アヴァンガルド」を実戦配備した。現在はその水上、水中、空中発射型の開発を進めているとされる。

 問題の中国は、射程千キロ~2500キロという弾道ミサイル「DF-27」を保有しているとされるが、さらに深刻なのは、英紙「フィナンシャルタイムズ」が報じた一件だ。それによると、中国は昨年8月に核弾頭が搭載可能で、かつ、地球を一周して目標に到達する能力を持つ極超音速滑空兵器の発射実験を実施し、目標から約40キロに着弾させた。理論的には地球のどこからでも任意の目標への攻撃が可能、ということを内外に示したのである。

 これは日本海側からではなく、東京湾の南側から都心を狙った核ミサイル攻撃を受ける事態もあり得るということだ。この事実は同盟国のアメリカにとっても深刻である。

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