プーチンがウクライナの原発制圧を進める「本当の狙い」 ザポリージャ原発の次に狙われるのは?

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ウクライナの研究者仲間たちは……

 ロシア軍の侵攻で「プーチンがここまでやるとは思わなかった。ソ連が1968年に『プラハの春』を戦車で蹂躙した歴史を思い出し心配です」と話していた今中氏には、30年来の友人であるウクライナの研究仲間がいる。安否を問う今中氏のメールに、キエフ北部に住むバロージャさんから返事があったそうで、「ベラルーシから南下したロシア軍がもう間近にいて、何度も爆音がしているようだが、市街戦にはなっているとは書いていなかった」とのことだった。バロージャさんの父親は、1956年のハンガリー動乱の時に介入したソ連を批判したり、ロシア語が強要される中、ウクライナ語の復権を掲げたりして投獄され1984年に獄死した闘士で、ウクライナの英雄だ。

 もう1人の友人、オレグさんからは返事がないという。今中氏は「無事だといいが、どうすることもできない。プーチンはソビエト帝国の復活を目指しているようだが、想像を超えた事態だ」と案ずる。オレグさんには筆者も自宅に招待され、奥さんの素晴らしいウクライナ料理をご馳走になったことがある。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は「原発を攻撃するなど歴史上、初めての暴挙だ」と怒りをぶちまけた。ところが、ロシア国防省は「原発は2月28日には既に制圧しており、ウクライナの破壊工作による事故」と断じた。プーチン大統領は世界がこれを信じると思っているのか。あるいは砲撃後、世界の世論に接してまずいと思ったのか。それとも、そんな声すら届いていないのか。

 2017年の夏、筆者が訪れたロシアのサンクトぺテルブルク市では、プーチン大統領の肖像入りのチョコレートまで売っていた。市井で尋ねても称賛ばかりで驚いた。2014年のクリミア併合から人気が沸騰していた。しかし今振り返れば、ロシア国民が真にこの男を理解した上での人気だったのか、それとも言論統制の産物だったのか。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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