プーチンがウクライナの原発制圧を進める「本当の狙い」 ザポリージャ原発の次に狙われるのは?

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エネルギーの「兵糧攻め」を狙うロシア

 ロシア軍の砲撃について、今中氏は「原発はクリミア半島に近くにあり、電源などを抑えておくための砲撃だと見ています。本当に原発を破壊したいのなら戦車などではなく、巡航ミサイルでも撃ってくるのでしょうが、それはないでしょう。あくまで原発の制圧が目的でしょうから、そんな破滅的なことをしたら意味がなくなってしまう。ただ戦車からの砲撃などは狙いが不正確で、いわゆる流れ弾のようなものが当たって大事故になる可能性もあり、それは怖い」と話す。

「流れ弾」とは、福島第一原発での「津波」と考えればいい。福島第一原発の事故も、津波で直接原子炉が破壊されたわけではないが、電源が水没して冷却できず、炉心のメルトダウンが起き、爆発した。ザポリージャ原発もロシア軍の砲撃によって、同じ事態になる可能性があった。原子炉自体は頑強でも、砲撃や流れ弾の影響で電気設備や配水管が壊れて水が原子炉に届かなくなれば破局に繋がることは、11年前に誰もが知ったはずだ。

 ロシアはウクライナの重要な電力供給源を制圧、都市への供給を遮断して都市機能を完全に麻痺させ、食糧のみならずエネルギー面からの「兵糧攻め」を狙っている。ザポリージャ原発周辺では、砲撃の数日前から原発を守ろうと原発作業員らと市民が列を作ってロシア軍を阻止していたが、ロシアの戦車隊列はあざ笑うようにそれを突破した。

原発依存度が高いウクライナ

 ウクライナ全土には15の原発があるが、ザポリージャ原発の西の方向、首都キエフから350キロ南にはウクライナ南原発がある。今中氏は「南からキエフへ向かう通り道にあたり、ロシア軍はここも狙うのではないか」と懸念する。同原発もVVER-1000を3基備える大原発だ。

 ウクライナの電力源のうち、原発の割合は53%を超え、原発依存度は高い。旧ソ連から独立した後、ソ連時代からの核兵器はロシアに返上したが、一貫して原発は稼働し続けている。チェルノブイリ事故の惨事を経験したはずのウクライナ人の原発に対する国民感情について、今中氏は「エネルギー源として原発は不可欠と考える人も多く、原発賛成、反対はほぼ半数ずつといった印象ですね」と語る。

 筆者は2013年夏、今中氏の助力で、チェルノブイリ事故の取材をした際、英語通訳のウクライナ人女性と2人でチェルノブイリ博物館を訪れた。原発に閉じ込められたまま亡くなった職員ボデムチュークさんや、救助に向かって死亡した消防隊員らの遺影などが並ぶ、実にリアルな展示で衝撃を受けた。行政が「負の遺産」を無かったことのようにする傾向が強い日本で、福島第一原発の事故をしっかり伝えるような博物館を作るだろうか、と考えた。チェルノブイリ事故は旧ソ連が起こしたものであり、ウクライナという国が起こして世界中に迷惑をかけた事故ではないという意識もあったのか。それでは、もし、チェルノブイリの事故が地勢的に現在のロシアで起きていれば、ロシア政府は事故を伝える博物館を作っただろうかとも思った。今頃になって今中氏に尋ねると「旧ソ連時代だったことと博物館のあり方はあまり関係がないのではないか」とのことだった。

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