「プーチンは狂人でもナショナリストでもない」 佐藤優が読み解く「暴君」の“本当の狙い”

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 まさかの軍事行動に、世界は憤りと失望を禁じ得なかった。「狡猾」「冷酷」「暴虐」……そんなキーワードで語られる大国の首領は、一体いかなる思考回路を持ち合わせているのか。本誌(「週刊新潮」)「頂上対決」でもおなじみ、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が読み解く。

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 侵攻の2日前、2月22日の映像では、ロシア軍の戦車と兵員輸送車に「Z」という識別符号が記されていました。ロシアとウクライナは同じ車両を使っており、何らかの形で区別する必要がある。これを見て私は、ロシアはウクライナに入る肚(はら)だと確信したのです。

 プーチンの狙いはウクライナの政権転覆、つまりゼレンスキー大統領の首をすげ替えることです。彼自身が明らかにしている通り、今回はウクライナ国内のロシア系住民の保護、そして同国の非軍事化が目的。そのためにまず、現政権打倒を目指しているわけです。

軍事介入を選んだ理由

 コメディアン出身のゼレンスキーは2015年に主演ドラマ「国民のしもべ」が大ヒットし、19年4月の大統領選で初当選しました。ところが、当初は70%以上あった支持率も、政界に蔓延(はびこ)る腐敗を正せずに急降下、1年後には30%ほどに落ち込み、現在はさらに低迷しています。そこで支持率上昇のために、反ロシア感情を高め、領土の回復を試みようと動き始めました。

 14年に親ロシア勢力が一方的に独立を宣言した東部の「ドネツク」「ルガンスク」両“人民共和国”の人たちは、多くがロシア語を話し、ロシア正教を信仰し、自らをロシア人だと認識しています。すでに70万人がロシア国籍を取得しているともいわれ、この地を取り戻そうとするゼレンスキーに対し、プーチンがそれを許せば国民を見捨てることとなり、政権が瓦解する可能性もある。そこで軍事介入というオプションを選んだのです。

 ロシアの行為は全く是認できるものではありません。国際法では、国連加盟国の紛争は武力で解決してはいけないことになっています。ただし、プーチンが完全な無法行為を働いているとも言い切れません。国際法を無視ではなく、巧みに「濫用」しているのです。

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