日本にも「スタグフレーション」のリスク 日本銀行だけが従来の金融政策で良いのか

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「供給制約に起因するインフレと地政学リスクが新型コロナのパンデミックからの世界的な景気回復に対する脅威である」

 2月17~18日に開催された20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議はこのような異例の警告を発した。

 ウクライナを巡るロシアと欧米諸国の軍事的緊張から、原油価格は1バレル=90ドル台に上昇している。今年の世界の原油需要が順調に伸びる一方、開発投資の不足による供給不足の懸念から、世界の原油市場の逼迫感が高まっており、これに地政学リスクが加わったことで「原油価格が1バレル=100ドルを超えるのは時間の問題だ」とされている。

 パンデミックによるサプライチェーンの混乱や労働力不足のせいで過去数十年で物価圧力が最も強まっている状況下での原油高は、世界の中央銀行にとって「弱り目に祟り目」だ。

 原油価格が経済に及ぼす影響はかつてほどではないにせよ、食料品価格や輸送費、光熱費などの上昇を通じて企業の経営や消費者の購買力を圧迫することに変わりはない。

 米ウォール街ではウクライナ情勢よりも足元のインフレを危惧する声の方が強い(2月16日付日本経済新聞)。米連邦準備制度理事会(FRB)の3月の利上げが確実視されており、「金利の上昇は企業財務の重荷になる」との認識が広がったことでレバレッジド・ローンなどリスク資産への投資が回避され始めている。住宅ローン金利の急上昇で1月の米国の住宅着工件数は減少しており、資産価格の下落なども囁かれ始めている。

「インフレには縁遠い」とされてきた日本も…

 足元のインフレの要因の大半はエネルギー由来だ。中央銀行が利上げをすれば、一般的な需要なら抑制できるが、生活必需品であるエネルギーの需要はあまり減少しない。

 需要超過の状態がもたらすインフレであれば、利上げによる鎮静化が期待できるが、現下のエネルギー価格の上昇は供給制約の色彩が強い。

 金融引き締めがもたらす需要抑制の効果でインフレ圧力を徐々に減らしていけるかもしれないが、抜本的な解決のためには世界のエネルギー供給量を増やすしかない。中央銀行が万能だからと言っても、利上げをしてエネルギー供給を増加させることはできない。供給制約由来のインフレは金融政策では対応できないのだ。

 さらに問題なのは、エネルギー価格の高止まりに焦った中央銀行が当初の想定よりも高い水準にまで政策金利を引き上げるリスクだ。エネルギー需要を縮小させるためには極端な価格上昇しか打つ手はないのだが、「インフレを抑えよう」と中央銀行が引き締めに躍起になれば、結果的に景気や雇用を急激に冷やす「オーバーキル」が生じてしまう。

「インフレには縁遠い」とされてきた日本も例外ではなくなりつつある。

 1月の消費者物価指数(CPI)は5ヶ月連続で上昇した。中でもエネルギー価格は前年比17.9%増と際立っており、第2次石油危機後の1981年8月(21.3%)以来41年ぶりの大きさだった。灯油が33.4%、ガソリンが22%、都市ガスが17.8%、電力が15.9%値上がりした。

 原油価格の高騰が今やより広範なインフレの問題に発展しつつあることから、日本でも「スタグフレーションが襲来するのではないか」との声が上がっている。

 スタグフレーションは「スタグネーション(停滞)」と「インフレーション(物価上昇)」を掛け合わせた造語で、景気後退の中で物価が上昇する状態を意味する。1960年代の英国で生まれたスタグフレーションという経済用語が広く認識されるようになったのは、石油危機により世界経済が急激なインフレと景気後退に苦しんだ1970年代だった。

 不況の時は需要の落ち込みからデフレになることが多いが、原油価格の高騰の影響で不況にもかかわらず物価全般が上昇してしまったのだ。

 日本のCPIも1973年に前年比11.7%、74年には23.2%と急伸した。「狂乱物価」の時代と呼ばれ、戦後初めて日本はマイナス成長となった。

 スタグレーションがいったん発生するとこれから抜け出すことは困難だ。通常の不況であれば金利を下げることで景気を刺激できるが、スタグフレーション下で金利を引き下げるとインフレをかえって悪化させてしまうからだ。

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