胃カメラで「異常なし」でも4人に1人が発症? 「機能性ディスペプシア」の治療法、予防法

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 長引く腹部の痛みや不快感に、意を決して病院で検査を受ける。だが異常はどこにも見つからず、原因もわからない。こんな時はいっそう不安を募らせてしまうものだが、実はその不調には一つの病名がついていた。そして近年、治療法や予防法もわかってきたのだ。

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〈長引くコロナ禍の中にあって、感染不安や外出制限、テレワークなど生活の変化で胃腸に不調を感じる人は少なくないだろう。だが胃痛や慢性的な胃もたれ、膨満感など症状が確かにあるのにもかかわらず、病院で検査をしてみると、胃には何も異常が見つからない、ということがある。一体これはどういうことなのか。体の中で何が起きているのか。日本人の4人に1人ともいわれる原因不明のお腹の疾患の正体を、消化管診療のエキスパートに聞いた。〉

 近年、こうした疾患を、「機能性ディスぺプシア(Functional Dyspepsia=FD)」と呼んでいます。本来「ディスペプシア」とは、消化不良という意味です。病気には、炎症が生じたり腫瘍ができるなど明らかに臓器に異常のある「器質的疾患」と、組織は正常でも不調を感じる「機能性疾患」があります。FDは、胃自体に器質的な異常はないけれども、胃の機能には異常が生じているということで、そう名付けられました。

QOLが低下

 症状は多種多様で、胃の不調全般といっていいでしょう。厳密な定義では、2016年に定められた「ローマIV」という国際基準があります。そこには、食べるとすぐに満腹だと感じる「食後早期膨満感」、胃もたれなどの「食後の満腹感」、みぞおちに当たる部位の「心窩(しんか)部痛」、同じ部位の「心窩部の灼熱感」の四つが挙げられています。これらに準ずる症状があれば、FDという診断になります。

 実際に診察すると、「胃を感じる」と言う人もいれば、「胃のなかに重りがある」とか「胃の中にマグマがあってグツグツいっている」と訴える人もいます。中には「口から手を突っ込まれて胃を引き出され、洗濯板でゴシゴシ擦られている」と表現した人もいました。

 症状の度合いにはバラツキがありますが、重い症状が出ている方は、QOL(Quality of Life=生活の質)がかなり落ちます。胃もたれや膨満感なら、食べる量を調節することである程度対応できますが、症状が重いと食事と関係なく痛みが生じます。FDでは慢性的に症状が続くため、同じくQOLを落とす炎症性腸疾患のクローン病や潰瘍性大腸炎などより、辛い状態になることがあるのです。

 またFDは原因がはっきりしないため、これが大きな不安をもたらします。これによって、さらにQOLが下がるということも起きてきます。

 FDは、最近ようやく一般に浸透してきたものの、まだ聞きなれず、分かりにくい言葉でもあるので、外来では「いわゆる慢性胃炎や神経性胃炎と呼ばれてきたものです」と説明することがあります。

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